【片恋パズル】1話2024年02月02日 22:00

〇マンション・502号室・リビング(夜)
部屋は暗い。
インターホンの音が鳴っている。
モニターにはスーツ姿の若い男が映っている。

〇同・同・一果の部屋(夜)
黒髪でボブ、目がクリっとした小柄な女性・相原一果(あいはらいちか・20)、ベッドでスマホを見ながら寝転んでいる。
パジャマ姿、眼鏡をかけている。
インターホンの音に気付き、立ち上がる。

〇同・同・リビング(夜)
一果、入ってきて電気を点ける。
部屋の中央にはローテーブルが置かれ、テーブルを囲むように低いソファが置かれている。
フワフワのクッションがソファの上に置かれている。
全体的にポップでカラフルな色調。
同居人の石川双葉(いしかわふたば・20)、怯えた顔でクッションを抱えながら出てくる。
双葉は長い髪、明るい栗色の髪には緩くパーマがかかっている。
双葉もパジャマ姿である。
一果と双葉、顔を見合わせる。
ドアを叩く音。
男の声「シン~ ふざけないで開けてくれよ~」

〇同・同・玄関・室内側(夜)
一果、フライパンを片手にチェーンロックしたまま、ドアを少し開けて顔をのぞかせる。
後ろには双葉。スマホで動画を撮影している。
一果「あの、どちらさまですか? 多分部屋間違えてます」
男は鵜月原凌(うつきはらりょう・24)。
酔っぱらっている様子。
鵜月原「あれ? もしかしてシンの彼女? 分かった。二人の邪魔しないからさ、着替えだけ取らせて」
鵜月原、ドアから手を差し入れるが、一果、フライパンで鵜月原の手を叩く。
一果「きゃ~、きゃ~、この、変態!」
手を叩かれた鵜月原、痛みで手を引き、一果、慌ててドアを閉める。
一果「シンて言ってたよね?」
双葉、頷く。
一果「あ~もう、めんどくさいな~ 絶対部屋間違えてるよ」
一果、ドアスコープを覗く。男が見当たらない。
一果「あれ? いない」
一果、首を傾げながら、ドアのチェーンを外して開け、キョロキョロする。
一果「うわ!」
鵜月原、ドアの前に座り込んで寝ている。
一果、ドアを閉める。
一果「寝ちゃったみたい。ほっとこうか」
双葉、スマホを操作する。
双葉の画面『でも玄関の前で死ん・・』
双葉、画面を見て考え直し、削除する。
双葉の画面『でもこの人に何かあったら?』
双葉、一果にスマホを見せる。
一果「確かにね。酔っぱらって死--」
双葉、慌てて一果の口をふさぐ。
一果「あ、ごめんごめん」
双葉、スマホを見せる。
二人でスマホをのぞき込む。
双葉の画面『助けなくても罪に問われると思う』
一果「え? うちら犯罪者になっちゃうってこと?」
双葉の画面『警察呼ぶ?』
一果「警察呼んだら、めんどくさいことになるよ。うちら明日も早いし」
双葉の画面『部屋番号分かるもの持ってないかな?』
一果「免許証とか持ってるかもね」
一果、ドアを開けようとするが、双葉が止めてスマホを見せる。
双葉の画面『でももし起きたら? 酔っぱらって暴れるかも』
一果「その時はこれでガツンとやるから大丈夫」
二人、頷いて覚悟を決め、ドアを開ける。
双葉、鵜月原のズボンのポケットを探る。
一果「どう?」
双葉、首を横に振る。
一果「じゃあジャケットの内側とかは?」
双葉、財布を見つけ、立ち上がり、一果に近寄る。
二人、財布の中を見ようとする。
男「ねーねー」
双葉、驚いて財布を放り投げる。
一果と双葉、声のする方を見る。
若い男がニコニコしながら立っている。
ラフな格好。背は高く、スポーツをやっているような引き締まった体が服の上からでも分かる。
男「お姉さんたち、スリか何か?」
一果「いえ、とんでもないです! この人うちの前で寝ちゃったんで、部屋番号分かるもの持ってないかなって思って・・」
男と一果、お互い顔をじっと見つめ、驚く。
男は一果の中学の時の同級生、鮎沢シン(20)。
鮎沢と一果、同時に
鮎沢「相原?」
一果「鮎沢?」
X X X
(フラッシュ)
鵜月原「あれ? シンの彼女?」
X X X
一果「あ、シンてそっか。鮎沢って下の名前、シンだっけ? もしかして・・この人知り合い?」
鮎沢「そうそう。同居人。相原は確か下の名前・・一果・・だったよな?」
一果「そう! よく覚えてたね!」
鮎沢「あの・・(双葉の方を見て)そちらは・・」
一果「ああ、友達の双葉。石川双葉。一緒に住んでるの。あ、双葉。この人は中学の同級生の鮎沢君」
双葉、お辞儀をする。
鮎沢「どうも、鮎沢シンです」
鮎沢、双葉にお辞儀する。
一果「ところで・・この人大丈夫? 同居人て・・」
鮎沢「お~ そうそう。これ、同居人のウッキー」
一果「ウッキー?」
鮎沢「そう。鵜月原だからウッキーね。鍵見当たらないって連絡もらってさ、玄関開けといたんだけどなかなか来ないから見に来たとこ。いや、でもまさか相原が隣に住んでるとはな〜」

〇マンション・501号室・リビング(夜)
鵜月原、ソファに寝かされている。
全体的にグレーの色調。
ブルーやグリーン、赤の家具もあるが、全てグレーのトーンで統一されている。
鮎沢、床に座り込み疲れた様子。
一果と双葉、鵜月原の服を緩めたり、毛布をかけたりしている。
鮎沢「酔っ払いって重たいんだな。ありがとう、手伝ってくれて」
一果「ううん。ちょうどよかった。うちらも、この人が部屋の前で寝られたら困るし、ね」
一果、双葉を見る。
双葉、頷く。
鮎沢、手を叩く。
鮎沢「あ、こういう時なんかお礼するんじゃなかったっけ? 2割ルール的な?」
一果「それって落とし物拾った時でしょ?」
鮎沢「落とし物・・みたいなもんだろ」
3人、鵜月原を見る。
一果「(笑いながら)ひどい・・でもじゃあこの人の2割って?」
鮎沢「あ~所持金の2割とか? あ・・そう言えば財布は?」
鮎沢、双葉を見る。
双葉、首を横に振る。
3人、顔を見合わせ、慌てて出て行く。
X X X
3人、入ってくる。
鮎沢、財布を持っている。
鮎沢「よかった~ 誰にも拾われてなくて」
一果「うん、ホント良かった〜」
3人、顔を見合わせる。
一果「ていうか、もうここに戻る必要・・なかったよね?」
鮎沢「俺もちょっとそれ思った」
3人「・・」
3人、笑う。
一果「双葉、帰ろっか。じゃ、鮎沢おやすみ」
鮎沢「おう。サンキュな」

〇同・同・玄関・室内側~廊下(夜)
鮎沢、ドアを閉め、鍵をかける。
廊下の壁に体をくっつけ、悶える。
鮎沢「うわ、超かわいいじゃん」

〇同・502号室・リビング(夜)
一果と双葉、入ってくる。
一果、嬉しそう。
一果「うわ、ヤバ! 何これ、運命? 鮎沢君相変わらずかっこよかった~」
双葉、何度も頷く。
双葉、スマホを操作し、一果に画面を見せる。
双葉の画面『前に言ってた初恋の彼だよね? カッコいい』
一果、照れて踊りだす。

◯同・501号室・前~玄関~廊下(翌日・夜)
鵜月原と鮎沢、土下座している。
鵜月原と鮎沢「昨日は大変申し訳ありませんでした~」
アイドルのうちわで顔を隠した一果、二人の前に立っている。
一果、すっぴんでメガネ。
通りかかった住人、不審な顔で見ていく。
一果、慌てて二人を家に入れる。
一果「やだ、ちょちょちょ、とりあえず入って」
一果、住人に向かって会釈。
一果「(小声で)知り合いです」
一果、ドアを閉め、鍵を掛け、振り向くと鮎沢と鵜月原がいない。
鮎沢と鵜月原、靴を脱ぎ廊下を歩いている。
鮎沢「お~邪魔~しま~す」
一果、慌ててサンダルを脱ぎ、追いかけようとするが、転ぶ。
一果「ちょっと待って! そういう入ってじゃないから! ちょっと! 入ってって言われても普通玄関まででしょ!」
鮎沢、気にせずリビングに向かい歩いていく。
鮎沢「え? そうなの? もう入っちゃったし~」
鵜月原、戻ってきて一果を抱き起こす。
鵜月原「大丈夫?」

〇同・同・リビング(夜)
鮎沢、入ってくる。
鮎沢「おお、同じ間取りだけどなんか新鮮! 女の子が住むとこうなるのか〜」
双葉、ソファに座っているが、二人を見て会釈をする。
鮎沢「おじゃましま~す。あ、昨日の! 双葉ちゃん!」
鮎沢、双葉を見て笑いかけ手を振る。
鮎沢「(後ろから入ってきた鵜月原に向かって)ウッキー、昨日一緒にウッキー運んでくれた恩人の双葉ちゃんだよ」
一果「私も手伝いましたが!?」
一果、不機嫌そうに入ってくる。
鮎沢「あ、そう。相原もね。双葉ちゃん、昨日はありがとう。ウッキーがお世話になりました」
鵜月原「鵜月原です。昨日はお恥ずかしいところをお見せしてすみません。ありがとうございました。これ、お詫びとお礼」
鵜月原、ケーキの入った袋を持ち上げる。
双葉、袋を見て目を輝かす。
鮎沢、ソファに座る。
鮎沢「まあまあ、座って」
一果「ちょっと! 自分家みたいに勝手に座らないでよ! もう分かったから。さ、帰って、帰って!」
鮎沢「ていうか、さっきから何そのウチワ」
一果「これは・・だってもうスッピンだし・・さ」
鮎沢「あ、俺たちそういうの全然気にしないから大丈夫。それにさ、昨日だってスッピンだったろ?」
一果「もう!」
一果、諦めたようにウチワを外す。
双葉、笑っている。
一果「じゃあ、ウッキーさんも座って。お茶くらい出すから・・あ! え? それってもしかして?」
一果、鵜月原の持っている紙袋を見て喜ぶ。
鵜月原「知ってる? 開店2時間前に並ばないと買えない、アルカンシエルのケーキ」
一果「きゃ~!!! 双葉! アルカンシエルのケーキだよ。幻だよ! 食べれるんだよ!」
一果と双葉、抱き合って喜ぶ。
一果と双葉、湯沸かしポットに水を入れ、お茶の準備を始める。
鮎沢「あ、俺コーヒーがいい」
一果、頷き、
一果「あ~ウッキーさんは?」
鵜月原「ありがとう。俺もコーヒー」
一果「分かった〜」
鵜月原「あんなに喜んでくれるとは・・並んだかいあったな、シン」
一果「え? 鮎沢が並んだの?」
鮎沢「はい、朝8時から並びました。2時間」
一果「なんかちょっと納得いかないような・・そもそも酔っぱらって迷惑かけたのはウッキーさんだから、ウッキーさんが並ぶなら分かるけど・・」
鮎沢「いやいや、昨日のあれは俺の責任でもありますので」
鵜月原「ホントはね、俺が並ぶって言ったんだけどさ、ほら、仕事あるからってシンが代わりに行ってくれるって言うからさ」
一果「分かった、分かった。じゃあ、昨日のことはもういいよ」
一果、テーブルにコーヒーを置く。
一果と双葉、ソファに座る。
一果「さ、これ飲んだら帰るんだよ」
鮎沢「え? またまた~」
一果「は?」
鮎沢「だから、このケーキ買ったの俺。並んだの、俺。労われる権利あると思う。ほら、相原が入れてくれたこの美味しいコーヒーも絶対合うって!」
一果「どこまで図々しいんだ、アンタは」
鮎沢、ケーキの袋を一果に寄せる。
鮎沢「さ、さ。開けてよ」
一果「もう・・」
一果、ケーキの箱を開ける。
一果「え~、かわいい~!」
一果、双葉にも見せる。
4種類のケーキが1つずつ入っている。
双葉、立ち上がり皿とフォークを取りに行く。
一果「4つってことは、双葉と2つずつってことだよね? 普通は?」
鮎沢「いや、4つってことは4人で食べるってことでしょ。普通は」
鮎沢、鵜月原を見て笑顔で頷く。
鮎沢「ね~ ウッキー」
鵜月原「あ~、俺はいいよ。食べなよ。っていうか、ほら、これ一応お詫びとお礼だし」
一果「でしょ! 鮎沢! これが普通の良識ある大人の反応ね。分かった?」
双葉、皿をテーブルに置く。
皿もフォークも4つずつ。
双葉、ケーキを1つずつ乗せていく。
唖然と見る一果。
一果「双葉! 今の聞いてたでしょ! この人たちはもう帰るから大丈夫」
双葉、スマホを打ち、画面を一果に見せる。
一果「みんなで食べた方が美味しいよ・・って双葉。あんた天使だね~」
一果、双葉の頭を撫で、ハグする。
鮎沢と鵜月原、顔を見合わせる。
鮎沢「えっと・・双葉ちゃんは風邪か何かで声が出ないとか?」
一果、鮎沢と鵜月原の視線を追う。
双葉のスマホを見ている。
双葉、うつ向く。
一果「あ・・そうだよね。双葉は・・声が出ないの。だから、スマホで会話。あ、でも声は聞こえてるから普通に話してもらって大丈夫!」
鮎沢「そうなんだ・・じゃあ、姫のお許しが出たので、早速いただきますか」
鮎沢、ケーキの乗った皿を取ろうとして一果に手をはたかれる。
一果「あんたが先に取るんじゃない!」
全員、笑う。
X X X
お互いの皿のケーキを分け合いながら食べ楽しそうに笑っている。
X X X
鵜月原「あ、そういえばシンに聞いたんだけどさ。所持金2割のお礼ってやつ」
鵜月原、財布から紙の束を取り出し、テーブルの上に置く。
鵜月原「まあ、遠慮せず受け取ってください。昨日のお礼です。全部あげる」
一果、目を輝かせて手に取るが、すぐに顔が曇る。
一果「・・何これ・・」
鵜月原「何って餃子の割引券。1皿につき50円も割引だよ。20枚綴り」
一果、黙って鵜月原に押し戻す。
鵜月原「え? いらないの?」
一果「せこ! 私、割引券とかクーポンとかマメに使う男の人ってちょっと・・」
鮎沢「相原! お前謝れよ! ウッキーに失礼だろ!」
鵜月原「傷ついたわ~ せこい男かぁ・・」
鵜月原、うつ向き肩を震わせている。
一果「え? 嘘? あ・・ごめんなさい・・」
鵜月原、よく見ると肩を震わせて笑っている。
一果「・・って笑ってるし! 全然傷ついてないじゃん!」
鵜月原「いや、男は顔で笑って心は泣くんだ。シン、君ならもらってくれる?」
鮎沢「はい、もちろん、喜んで! 相原、今度一緒に行こうぜ。あ、もちろん双葉ちゃんも一緒に!」
一果と双葉、顔を見合わせて頷き、笑う。
鮎沢、双葉の顔を見つめる。
鮎沢「そういえば双葉ちゃんて前に会ったことないよね?」
双葉、首を傾げ、少し考えるが首を横に振る。
鮎沢「そっか・・なんかどっかで見た気がするんだよな・・」
一果「ほら、中学は違うけど、同じ地元だし、ただ見かけただけなんじゃない?」
鮎沢「だよな。まあ、思い出したら言うわ」

◯食品工場・食堂
作業服姿の一果と双葉、テーブルで中身が同じ弁当を食べている。
同じテーブルには50歳くらいの女性(美保と真理子)が座り、それぞれ弁当や食堂の定食を食べている。
美保「一果ちゃん、それでその初恋の彼とはうまくいきそう?」
一果「わかんないです。だって昨日なんて突然来るんですよ。スッピンで眼鏡で髪なんてターバンでまとめてる時に! もう最悪ですよ。でも全然気にしてないの。これって脈ないですよね? 完全に女として見られてなくないですか?」
美保「まあ男なんてそんなもんよ。逆にそれだけゼロに近い姿見せてたら、ギャップでイケるんじゃない? ね~」
真理子「そうそう。一果ちゃん、メイクして普段と違う姿見せたら? ギャップにドキッとするのがいいのよ」
一果「それ、真理子さんの体験談ですか? うまくいきました?」
真理子「まあ、結果的にはうまく行ったわよ。だけど最初、緑のアイシャドウがアザに見えたらしくて『大丈夫ですか? どこかでぶつけました?』ってさ。アハハ。懐かしい」
一果「それ、違う意味の『ドキッと』じゃないですか・・あ~あ」
美保「でも、恋をするならドキドキも大切だけど、結婚するなら今の一果ちゃんと彼くらいの距離がいいと思うけどね。一緒に暮らすなら気疲れしないで何でも話せる人が一番」
真理子「そうそう。色んな事話し合える人じゃないと無理無理」
一果「なんか・・全然アドバイスになってないです・・結局私どうしたらいいんですか?」
美保「そうね・・でもそれだけ近くにいるなら、料理は? 一果ちゃん料理得意でしょ? お弁当だっていつも美味しそうだし。ね、双葉ちゃん」
双葉、笑顔で頷く。
美保「料理が得意なんて最高じゃない! お隣さんなら『作りすぎた』とかなんとか言って渡してみたら?」
一果「なるほど~ 何作ったらいいですか?」
美保「若い子でしょ? 唐揚げとかでいいんじゃない?」

〇マンション・502号室・リビング(夜)
一果と双葉、パックしている。
一果は料理雑誌を広げ、熱心に付箋を付けたりしている。
雑誌のタイトルは『心も掴める男飯』
双葉は女性向けの雑誌を広げ、熱心にメモをしている。
見ているところはメイク特集。

〇同・同・キッチン(日替わり)
一果、楽しそうに大量の唐揚げを揚げている。
リビングから笑顔で見守る双葉。
一果、空のタッパーを持ち、インターホンを鳴らす動作。
一果「ピンポーン」
一果、体の向きを変え、
一果「(鮎沢の真似で)相原? 何?」
一果、体の向きを変え、
一果「あ、鮎沢夕ご飯まだだったりする? 唐揚げ、作りすぎちゃったから、いるかなあ?と思って」
一果、体の向きを変え、
一果「(鮎沢の真似で)唐揚げ? すげえじゃん。いるいる!」
一果、嬉しそうに足を踏み鳴らす。
双葉、笑っている。

〇同・同・リビング
双葉、一果にメイクをしている。
少し離れて双葉を見つめ、納得したように頷き、一果に鏡を渡す。
一果、鏡を見て微笑む。
一果「双葉、ありがとう~」
一果、双葉にハグする。
双葉、一果の目を見つめ、「頑張って」という口の動きをする。
一果「うん。行ってくる!」

〇同・501号室・玄関前(夕方)
一果、少し緊張した面持ちで咳ばらいをする。
ゆっくりとインターホンを鳴らす。
鮎沢とも鵜月原とも違う男の声。
男「はい」
一果「(戸惑いながら)あの、鮎沢君、いますか? 隣の相原です」
少し間が空いて、玄関の扉が開く。
小太りの人の良さそうな若い男が出てくる。
男は足立満(あだちみのる・20)。
足立「シンさんなら、今風呂なんで、上がっててもらうようにってことですけど」
一果「え? お風呂? じゃあいい、いい、いい、いい。大した用事じゃないし」
足立「いや、でも帰られたら俺が怒られるんで。どうぞ」

◯同・同・リビング(夕方)
足立と一果、入ってくる。
テーブルには料理の数々。
一果「え? 何? すごい料理」
一果、唐揚げの入った袋を隠そうと後ろに持つ。
鮎沢が入ってくる。
鮎沢「お~ 相原ごめん。どした?」
一果、振り返る。
鮎沢、裸で下半身だけタオル。
一果「うわ! ちょっと服!」
鮎沢「あ~ ごめん。服着てくるからちょっとどいて」
一果、ドアの前に立っていることに気付く。
一果「あ、ごめん」
一果、ドアの前からどく。
鮎沢「ていうか、これ俺に?」
鮎沢、一果の持っていた袋を奪う。
一果「あ~ ちょっと待って。違うの――」
鮎沢「お! 唐揚げ? 相原作ったの? すげえじゃん」
一果「あ、その、作りすぎちゃっておすそ分けって思ったんだけど、いらないよね?」
一果、テーブルに乗っている料理を見る。
鮎沢「いるいる! な、ミノル!」
足立「はい! 唐揚げは無限に食べれるんで!」
鮎沢「相原も食ってけよ。帰るなよ!」
鮎沢、自分の部屋に入っていく。
X X X
鮎沢、一果、足立、ソファに座り、惣菜や一果の持ってきた唐揚げを頬張っている。
一果「え? で、ミノル君はお弁当屋さんなの?」
足立「はい! シンさんがうちの唐揚げ気に入ってくれて。一時期毎日唐揚げ弁当買ってくんで、うちの中で『唐揚げ君』て呼んでました」
一果「そうなんだ? 鮎沢ごめん~ 唐揚げにそんなこだわりあるなんて知らなくて」
鮎沢「なんで? これはこれで旨いよ。な?」
足立「はい。唐揚げって言うか、竜田揚げですかね。衣がパリッとしてて旨いです」
鮎沢「だよな。相原確か調理系目指してただろ。林間学校で仕切ってたじゃん」
一果「そんなのよく覚えてたね! え? でもミノル君とはどういうつながり? 同じ大学とか?」
鮎沢「いや、違うけど・・ なんでだっけ?」
足立「一度、うちの父親が仕入れの買い物してる時に倒れたんです。シンさん、その時たまたま居合わせて、救急車呼んでくれて、僕たちが到着するまで病院で待っててくれたんです」
一果「なに、そのいい話」
足立「その後も、父親が入院中店の手伝いに来てくれたりしてて、僕達家族すっかりシンさんのファンになっちゃって。で、たまにこうして惣菜届けるようになったんですよ」
一果「ちょっとちょっとミノル君、盛ってない? その話だけ聞くと鮎沢めっちゃいい奴じゃん」
足立「いやいや、盛ってるどころかむしろ控えめですって!」
鮎沢「っていうか、誰でも同じことするだろ。目の前で倒れたんだぜ。救急車くらい呼ぶだろ。普通のことじゃん」
足立「いや、店の手伝いまでしないですよ。こういう人なんですよ。だから僕、シンさんに一生ついてくって決めたんです!」

〇同・502号室・リビング(夜)
一果、双葉に甘えるように膝枕をされている。
一果「ヤバくない? 鮎沢いい人すぎ~」
双葉、微笑みながら頷いている。
双葉、思いついたようにスマホを操作し、一果に見せる。
双葉の画面『で? 鮎沢君のハダカは? 合格?』
双葉、イタズラっぽく微笑む。
一果「きゃ~、それがね、ちゃんと鍛えてるっぽくていいカラダしてた! サッカーもこっちでサークルに入って続けてるらしいんだ!」
双葉、スマホを操作し、画面を見せる。
双葉の画面『じゃあ、お料理差し入れ作戦、継続だね!』
一果、笑顔で頷く。
一果「あ、そういえば今度双葉も一緒に来たらって言われたよ。双葉はウッキーさんどう?」
双葉、慌てて首を横に振る。顔が赤い。
一果、双葉の様子を見て笑う。

〇食品工場・食堂
作業服姿の一果と双葉、美保と真理子、昼食を食べている。
一果と双葉の弁当には唐揚げが入っている。
一果「美保さん、ありがとうございました! 唐揚げ喜んでもらいました!」
美保「一果ちゃん、ホントに行ったの? すごいね~ どうだった? 二人で唐揚げ食べたんでしょ?」
一果「あ~ それが・・行ったらミノル君て友達が来てて。二人きりにはなれなかったです。しかもその友達、弁当屋で! 行ったらテーブルの上に惣菜並んでました! 唐揚げもかぶっちゃいました」
全員、笑う。
美保「何それ~ じゃあ次は弁当屋が持ってこないようなおかずにしなきゃね」
一果「え? どんなおかずですか?」
美保「わかんないけど! なんかカフェとかで出そうなおしゃれなのでいいんじゃない?」
真理子「ていうかそれならさ、もういっそのこと彼氏の家で作ったら? スーパーで安売りしてたから買いすぎちゃったとか言って食材持ってったりしてね」
一果「え、ちょっと真理子さん、彼氏って! まだ全然そんなんじゃないですよ~」

〇マンション・502号室・リビング(夜)
一果と双葉、目の部分が開いたアイマスクをしている。
一果は料理雑誌を広げ、熱心に付箋を付けたりしている。
雑誌のタイトルは『彼も満足 カフェご飯』
双葉はスマホでメイク動画を見て、熱心にメモをしている。

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