【片恋パズル】あとがき2024年04月05日 22:00

最後までお読みいただきありがとうございました。

今回は『金曜22時に見るドラマだったら?』と妄想し書かせていただきました。

書いているのはもちろん自分なのですが、本当に完成できるのか半信半疑で、今回も、誰かに書かされているような不思議な体験をさせていただいています。(『双葉』という名前も、まさか双葉の店舗外観デザインになると思ってませんでした。)

主人公の一果と双葉の設定年齢は20歳です。
実は、昨年あるきっかけで前世占いをしてもらったのですが、私の前世は若い頃に自ら向こうの世界へ旅立たれた方だと言われました。もちろん、確かめる術はありませんし、前世自体存在するものなのか分かりませんが、実際私自身、そのくらいの年齢の時にその選択をしました。私の場合、薬の過剰摂取ということで、幸いこちらの世界に留まることができましたが、この物語を書くことで、命がなければ得られなかったことを改めて振り返ることができました。

生き方が不器用すぎて、20歳が遠い昔になった今でも落ち込むことはありますが、それでもなんとか生きてますし、お気に入りのドラマを毎週楽しみにしている自分がいます。

これからも、見終わった時に心がちょっとだけ安らぐような物語を書いていけたらと思っています。

【片恋パズル】10話2024年04月05日 22:00

〇マンション・501号室・リビング
ソファに一果と双葉が座っている。
反対側には水琴が座り、一果に絵を見せている。
双葉の声「一果の結婚が決まり、お祝いにと水琴さんがジュエリーを作りに来てくれた」
水琴「どう? 一果ちゃん。こっちと(違う絵を見せる)こっち」
水琴、一果の顔を観察している。
水琴「うん、こっちね」
水琴、手元のタブレットに何か入力している。
水琴、違う絵を出す。
水琴「じゃあ、これが最後。こっちと(違う絵を見せる)こっち」
水琴、一果の顔を観察している。
水琴「うん、こっちね」
水琴、手元のタブレットに何か入力している。
水琴「オッケー! じゃあ、今度試作品作ってくるから。楽しみにしててね」
一果「オーダーのジュエリーってこんな風に作るんですね・・」
水琴「フフフ、私のやり方は変わってるの。だからあんまり参考にならないかも」
双葉の声「水琴さんのやり方は確かに独特で、その人が無意識に感じている好き嫌いを元に、ジュエリーを作っていると言っていた」
水琴「だって、似合うとか似合わないとか他人を意識したものより、本当にその人の気分が上がるものを作りたいでしょ? 意外と自分の『好き』って自分では分からないものなのよ」
一果「うわ~ すっごく楽しみです!」
水琴「でもまさか私よりも早く一果ちゃんが結婚するなんて思わなかった」
一果「私もまさかです! まあ彼が15も上なんで、そういう流れになりますよね。あ! でも水琴さんも! お子さんおめでとうございます」
水琴、お腹を触る。
水琴「ありがとう。まだ安定期に入るまでは油断できないけどね」
一果「あ、結婚式のドレス、大丈夫なんですか?」
水琴「ええ。そんなに体型も変わっていないはずだから、直すとしても少しくらいで大丈夫」
一果「それなら良かったです。あ、ちょっとすみません」
一果、立ち上がり出て行く。
水琴「双葉ちゃんもおめでとう。シンと付き合ってるんだって?」
双葉「あ・・はい」
水琴「良かった。双葉ちゃんもだけど、シンも変わった。本当の恋は人を変えるのね。羨ましい」
一果、入ってくる。
一果「ごめんね~ なんか最近トイレ近くて。え? 羨ましいって?」
水琴「双葉ちゃんもシンも変わったな~って思って」
一果「ですね。双葉もすっごい綺麗になったし」
双葉、照れながら首を横に振る。
水琴「認めなさい。そんな幸せ双葉ちゃんには・・」
水琴、バッグからアクセサリーケースを取り出し、双葉の前に置く。
水琴「はい! これ、あげる。オーダージュエリーは双葉ちゃんの結婚式の時に作ってあげるね」
双葉「え? そんな・・もらえないです」
水琴「もらえない、じゃなくて、もらうの。ペアリング。おもちゃみたいなものだし、サイズも合わせといたから、もらってくれないと困る。ね、お願い。気に入らなかったらつけなくてもいいし。あ、でもシンには付けてもらった方がいいと思って。シン、無自覚で優しいから、すぐ勘違いされちゃうでしょ? 女除け。くだらない女のために、2人の仲壊されるの悔しいじゃない」
一果「確かに。告白されたら誰とでも付き合うし」
全員、笑う。
一果「まあ今の鮎沢は、双葉のこと大好きだし、前とは違うと思うけど、せっかくだし、見てみたら? ていうか、私見たい!」
双葉、ケースを開ける。
リングが2つ並んでいる。
一果「素敵! ね~ね~双葉、付けてみてよ」
水琴「左の薬指用ね。一応双葉ちゃんのサイズで作ったけど、もし合わなかったら直すから」
双葉、頷いて指輪をはめる。
双葉「かわいい・・」
水琴「良かった~ 双葉ちゃんの雰囲気にピッタリ。サイズも大丈夫そうね」
一果「いいな~」
水琴「じゃ、もう返品不可ね」
水琴、アクセサリーケースを双葉に寄せる。
双葉「ありがとうございます」
双葉、笑顔で指輪を眺める。

〇結婚式場・花嫁控室
ウエディングドレス姿の一果、鏡の前に座っている。
双葉の声「それからあっという間に一果の結婚式の日になった」
一果の後ろには水琴と双葉。
水琴、イヤリングを取り出し、鏡を通して一果に話しかける。
水琴「これね、式用にちょっと足してるけど、普段使う時は外せるようになってるの。パーティの時はこれで。普段のお出かけの時はこうすれば、違和感ないでしょ?」
水琴、一果の耳にイヤリングを付ける。
双葉「一果、綺麗・・」
双葉の声「水琴さんの作ったイヤリングは本当に素敵で、付けた瞬間一果の顔が変わるのが分かった」
水琴「一果ちゃん、いい顔してる。ジュエリーはね、自分の気分が上がるものを選ぶといいの。嫌なことや落ち込むことがあったら、これをつけて鏡を見て。先に自分の気分を上げるの。そうすると、幸せな気分の自分が、自分を幸せなところに連れてってくれるから」

〇カフェ・店内
ティファニーブルーと白を基調にした店内。
テーブルにはカップとポットが置かれている。
双葉の声「後で分かったことだけど、結婚式の時、一果は妊娠していたらしい」
一果「双葉~ ホントごめんね。まさかこんなに早く、妊娠するなんて」
双葉「二次会のオタ芸のこと? 全然大丈夫。それにミノル君の奥さん、喜んでたよ。本当はやりたかったんじゃない?」
一果「私はさ、全然やる気だったんだけど、誠が『絶対ダメだ』って」
双葉「私も職長に念押しされた。『一果が僕に黙ってやるかもしれないから、絶対やらせないで』って」
二人、笑う。
一果「そういえば知ってる? ウッキーさん社長になったの」
双葉「そうなの?」
一果、スマホの画面を見せる。
経済紙の人事ニュース記事に鵜月原の名前。
双葉「御曹司って本当だったんだね」
一果「ね、餃子の割引券をお礼に渡すような人が、こういう人と思わないよ~ でもね、水琴さんから聞いたんだけど、ウッキーって兄弟3人いるんだって。お父さん、それぞれにグループ会社の社長やらせて、最終的にトップを誰にするか競わせるみたいだよ。御曹司に生まれても大変だよね~ 奥さんの手腕も問われるらしいから、水琴さんも大変だと思う」

〇ライブ会場・入口
ウエルカムボード。
『Happy Wedding Ryo&Mikoto』

〇同・客席
隅のテーブルの上に料理や飲み物が置かれている。
立食用にいくつかテーブルが置かれ、二次会に呼ばれた友人たちが歓談している。
双葉の声「一果の結婚式の1か月後、凌さんと水琴さんの結婚式があった。結婚式には財界人や政治家、芸能人もたくさん出席していて、私たちは当然そこには呼ばれなかったけど、二次会に呼んでもらっていた」

〇同・ステージ
暗い室内。
ステージ上にはスポットライトが当たっている。
足立、足立嫁、鮎沢、双葉がペンライトを持ち、オタ芸をしている。

〇同・客席
一果、水琴、鵜月原はステージ上のオタ芸を見て笑っている。
X X X
明るくなった会場。
一果と水琴と鵜月原、隅に置かれた椅子に座っている。
オタ芸の衣装を着たままの足立と足立嫁が来る。
鵜月原、立ち上がる。
鵜月原「お疲れ。今日はありがとう」
一果「お疲れ様~ ごめんね、結局出れなくて」
足立「いえ、妊娠中の一果さんに打たせるわけにはいきませんので」
一果「私は全然やる気だったんだけどさ、旦那がうるさくて」
足立「当然ですよ。僕だってやらせません」
鵜月原「でもさすがミノル、キレキレだった。奥さんも」
足立「ありがとうございます!」
足立嫁、笑顔でお辞儀をする。
鮎沢と双葉、飲み物を持ってくる。
鵜月原「シン、双葉ちゃん、お疲れ。ありがとう」
鮎沢「おう。疲れたわ~ あ、飲み物適当に持ってきた。どれがいい?」
足立と足立嫁、飲み物を受け取る。
鮎沢「見てると簡単そうだけどさ、意外と奥深いわ~」
鮎沢、飲み物を飲み、汗を拭く。
双葉、タオルで顔を扇いでいる。
鵜月原「懐かしいな~ このメンバー。みんな、今日は来てくれてありがとう」
全員、飲食をしながら歓談している。
足立、ブレイクダンスをし始める。
徐々に会場の中央で踊り始め、全員が手拍子している。

〇ネイルサロン・外観(5年後)
T「5年後」
こじんまりとした店舗。
白い壁の下側には種から芽を出した双葉の絵が描かれている。
その双葉にはたくさんの光が当たっている様子が描かれている。
店舗名『lumière』
双葉の声「4年ほど前、一果が最初の産休に入るタイミングで、私は工場をやめてネイリストになった」
大きなショーウインドーには、様々なデザインのネイルチップが飾られている。
店の前には『祝 開店』の花輪などが置かれている。
双葉の声「そして今日は私のお店のオープン初日」
ドアが開き、50代くらいの女性、続いて双葉(25)が出てくる。
女性「じゃあ双葉ちゃん、またね」
双葉「はい。ではまた来月。ありがとうございました」
双葉、お辞儀をして女性を見送る。
一果(25)「双葉~」
双葉、声のする方を振り返る。
一果、マタニティ服姿。
双葉、一果に向かい手を振る。
双葉「来てくれてありがとう」
双葉と一果、店に入っていく。

〇同・店内
白を基調とした店内。
ところどころに観葉植物が置かれている。
店内の中央にリクライニングチェアが置かれている。
リクライニングチェアの横にはキャスター付きのスツール。
双葉と一果、入ってくる。
一果「すごいね~、まさか双葉がネイリストになって、自分でお店出すなんて」
双葉「私もまさかだよ。でもとりあえず今は頑張らないと。あ、座って」
一果、持ってきた紙袋を渡す。
一果「これ、開店のお祝い」
双葉「ありがとう~ 気を遣わせちゃったね」
一果「ううん。これぐらいさせてよ」
一果、店内を見て回る。
一果「すごいね~ 結構インテリアとかも決めるの大変だったでしょ?」
双葉「うん。妥協したくなくて」
一果「あ! これってもしかしてあの時のパズル?」
一果、壁のパズルを指差す。
双葉「そう。懐かしいでしょ?」
一果「すごいよね~ よく完成させたよね。あれ? 1個だけない・・」
パズルの1ピースが嵌められていない。
双葉「あ・・うん。そうなの」
一果「ミノルくんも友達からもらったって言ってたもんね。どっかでなくなっちゃったんでしょ」
一果、リクライニングチェアに座る。
一果「うわ~、この椅子座り心地最高。寝ちゃいそう」
双葉「でしょ? 色んなリクライニングチェア試して、最終的にこれにしたの。あ、今日はハンドマッサージでいいんだっけ?」
一果「うん。ありがとう」
双葉、スツールに座り、一果の手に触れる。
一果「ヤバい、触られただけで寝そう・・双葉の手、気持ちいい・・」
双葉「今3人目だっけ? だいぶ疲れてるね・・」
一果「うん。誠も手伝ってくれてるんだけどね・・」
一果、眠っている。
双葉、微笑み一果にブランケットをかけ、ハンドマッサージを始める。
双葉、壁にかかったパズルを見る。
双葉の声「結局パズルの完成までに1年近くかかった。2000ピースもあるのに全部違う形で、まるで、人のようだと思った。それぞれが違う凹凸をもち、支え合い、補い合いながら一つの世界を作っている。例え隣り合わせにはならなかったとしても、違うピースを介してつながっている」
双葉、店内を見回す。
双葉「このお店も、シンや凌さんを通じて、色々な人が集まってくれたから完成した。タオル一つとっても、私の知らないたくさんの人が関わっている。そう。この世界で今生きている人たちはきっと、どこかでつながっている。だから、目の前の人に優しくしてあげよう。その人がまた目の前の誰かに優しくして、そのまた誰かが誰かに優しくして、その優しさが私の大好きな人たちに伝わってほしいと願う。一果がいなければ、シンがいなければ、凌さんがいなければ、今の私はいない。みんなが私を1つのピースとして認めてくれて、居場所を作ってくれた」

〇中古買取店・店内
子連れの若い女性(25くらい)、カウンターで苦情を言っている。
双葉の声「世の中には、自分の場所じゃないと気付いていながら」

〇電車のホーム
男性(50くらい)、駅員に詰め寄っている。
双葉の声「自分を削って、時には大きくして、無理にその場所に当てはめている人がいる」

〇インサート・無理にはめ込んでバラバラになるパズルのピースの映像

〇ネイルサロン・店内
双葉の声「そういう人たちはみんなとても苦しそうだ」
X X X
(フラッシュ)
マンション・502号室・双葉の部屋。
自分で自分の首を絞める双葉。
X X X
双葉の声「かつての私も同じだった。お母さんが死んでしまったのは自分のせいと思い込み、自分の居場所なんてどこにもないと思い込み、自分を削り続けることが自分の使命だと勘違いしていた。どうかみんなは、自分を削ったり大きくしたりしなくても、自分のままでぴったりハマる、場所が見つかるといいと願う」
双葉、一果の様子を見つめる。
一果、熟睡している。
双葉、微笑みながら一果の手を拭き、ブランケットの中に入れ、反対側の手のマッサージを始める。
双葉の声「あの時の私はなぜあんなに声を出すことが怖かったのか、自分のことなのに分からない。それなのに、他人のみんなが根気強く付き合ってくれた。この世には、びっくりするくらいいい人がいる。息をするような当たり前さで、人のために愛情を注げる人がいる」

〇回想・マンション・502号室・リビング(5年前)
一果(20)「だってもしあの時双葉と別れちゃったら、私一生後悔すると思ったんだもん。双葉のためじゃない。自分のためだよ。普通でしょ?」

〇ネイルサロン・店内
双葉の声「絶対普通なんかじゃない。私は人に恵まれた。この人たちがいたから、私は今生きている。人はパズルのピースよりもっと複雑にできている。自分でも自分がどんな形をしているのか、どこにいけばいいのか、分かっている人は少ない。それでも、根気よく探し続け、自分の場所にハマった時、人は輝けるのだろうと思う」
一果、目を覚ます。
一果「うわ、寝ちゃった! 全然記憶ないよ~ なんか損した気分」
二人、笑う。
一果「そういえば鮎沢は? 帰ってきた?」
双葉、首を横に振る。
双葉「まだ」
一果「そっか・・あのね、双葉。あくまでもミノルくんから聞いた話なんだけど、もしかしたら鮎沢、新しい彼女いるかも」
一果、スマホを取り出し画面を見せる。
ネットニュースの記事。
記事タイトル『若手起業家が作ったアプリ「pēs(ピース)」が特別賞を受賞』
鮎沢を含めた数人が笑顔で写っている写真。
一果「ほら、ミノルくん、お弁当を定期的に鮎沢の会社に届けてるらしいの。鮎沢が、この人とすごく仲良さそうにしてる姿見たって」
一果、写真を拡大して、一緒に写っている女性を指差す。
双葉「・・」
一果「鮎沢の作ったアプリさ、すごく便利だし、私も使ってる。多分すごく忙しいんだと思うんだけど、それでもそんなに会社に泊まりっぱなしって、おかしいんじゃ・・ないかな。ごめん、余計なことだったら」
双葉「ううん、ありがとう」
一果「違うと思うけど、もし私に気を遣っているんだったら、いいからね。なんなら誰か違う人、紹介するし」
双葉「ありがとう。でも大丈夫。まずはこのお店軌道に乗せないと」
一果「そっか。もし私にできることあったら、何でも言ってね」

〇同・外
双葉、一果に手を振り見送っている。

〇同・店内
双葉、マッサージで使ったタオルなどの片付けをしている。
双葉の声「シンが作ったアプリは、シンらしいアプリだった」
双葉、スマホを立ち上げアプリ『pēs』を開く。
地図が表示され、アイコンが見える。
双葉の声「困ったときに、近くにいる人に助けてもらえるサービスで」
双葉、地図を拡大し困っている顔のアイコンをタップする。
表示『5歳の男の子が迷子です。青い帽子。キャラクターのTシャツ。黄色いズボン』
双葉、しばらく見つめているとアイコンの表情が笑顔に変わる。
表示『見つかりました! みなさんありがとうございました』
アイコンに次々にハートマークがつく。
双葉、ハートマークを押し、笑顔になる。
双葉の声「アプリの名前『pēs(ピース)』はパズルのpieceと平和のpeaceから名付けたらしい」

〇回想・マンション・501号室・リビング(1年前)
T「1年前」
鮎沢(24)と双葉(24)、ソファに座っている。
鮎沢、スマホを操作し双葉に見せる。
鮎沢「これ、試作品なんだけどさ。近くの人同士で助け合えるアプリ。俺さ、みんなつながっていると思ってるんだよね。通りすがりの人も、もしかしたら双葉の親戚とかかもしれないじゃん? 顔知らないだけで、全員他人じゃないと思ってる。それに、災害とかあるとさ、あっという間に何千万とか億とか集まるし、困っている人を助けたいって思ってる人って多いんだよ。だけど余計なお世話だって思われたくない、うっとおしいと思われたくない。だから困っている人がいても、見て見ぬふりをしてしまうと思うんだ。困っている人も、助けてほしい、って言うのは迷惑なんじゃないかって遠慮して言えないと思うんだよね。アプリだったらさ、迷惑だって感じる人は見なきゃいいわけだし、助けたい方も具体的に『こうしてほしい』って言われれば手を貸しやすいじゃん。それに、例えば近くにいなくて手助けできなかったとしても、この『ハートマーク』を押すと、助けた人にポイントが付く」
双葉「ポイント?」
鮎沢「そう。ポイントは換金もできるし、その人の評価にもなる」
双葉「それじゃ、、ポイントほしさに人に優しくする人が出るんじゃない?」
鮎沢「それでもいいじゃん。見返り欲しさだとしても、人に優しくして、優しくされた人が幸せになればさ」
双葉「シンらしい」
双葉、微笑む。

〇ネイルサロン・店内・パソコンの画面(夕方)
新規予約のポップアップが出ている。

〇同・入口(夕方)
双葉、札をかけている。
札『本日の受付は終了しました』

〇同・店内(夕方)
双葉、リクライニングチェアの準備をしている。
双葉の声「『みんなが幸せになればいい』シンの口癖だった。そんな風に堂々と言われるとこっちが恥ずかしくなるくらい、シンは当たり前のように語っていた。もしかしたらシンは未来から来た人で、みんなが幸せに暮らしている未来を知ってるからじゃないか、って時々思ってしまうくらいだった」
双葉、パズルの前に立ち、欠けたピースの部分を触っている。

〇回想・マンション・501号室・リビング(3か月ほど前)
T「3か月ほど前」
キャリーケースを手に双葉の前に立つ鮎沢。
鮎沢「双葉・・ごめん」
双葉の声「開店まであと3か月という時に、シンはマンションを出て行った。今までシンが携わった店舗と顧客をつなぐ新しいアプリを作っていたのだけれど、大幅に遅れていて、その遅れを取り戻すためと言っていた」
鮎沢「待っててほしい」

〇回想・マンション・501号室・玄関(3か月ほど前)
鮎沢、扉を開け出て行く。

〇回想・ネイルサロン・店内(2か月ほど前)
T「2か月ほど前」
店内を見回す鵜月原。
鵜月原「だいぶ完成したね。いい店になった」
双葉「はい。ウッキーさんのおかげです」
鵜月原「僕はちょっと手伝っただけだから。あ、これって」
壁に飾られているパズル。
パズルの前に立つ双葉と鵜月原。
鵜月原「懐かしいね。あの時のでしょ?」
双葉「はい。あの時の」
鵜月原「・・双葉ちゃんは、変わったね。あの時とまるで別人。よく頑張ったね」
双葉「ウッキーさん・・凌さんのおかげです。話さない私を、事情も知らないのに、そのまま受け入れてくれた。優しくしてくれたから。私も、自分に優しくしてあげよう、って思えた」
鵜月原、双葉の横顔を見つめる。
双葉、視線に気づき、
双葉「え? どうしました?」
双葉、笑顔で鵜月原を見つめる。
鵜月原「・・大丈夫? 肩、貸そうか?」
双葉、首を横に振る。
双葉「スーツ、汚れちゃう」
鵜月原、双葉を抱き寄せ、背中をさする。
鵜月原「そんなこと、気にしなくていい。前に言ったように、双葉ちゃんのこと、好きだし、どんなことがあっても、ずっとそれは変わらないから」
双葉、頷く。
鵜月原「シンは・・まだ帰ってこないの?」
双葉、頷く。
鵜月原「そっか・・アイツは集中しすぎるからな~」
双葉、笑いながら頷く。
鵜月原「大丈夫。絶対帰ってくるから」
双葉、頷く。
鵜月原「双葉ちゃんのこういう部分、シンには見えてないんだろうな。シンの目に映る双葉ちゃんは、きっと・・いつも笑顔」

〇同・同(夕方)
双葉、リクライニングチェアの準備をしている。
双葉の声「一果が『軍隊』と例えたように、シンは私のペースなどおかまいなく私の中に隠れていた『私』の手を引っ張り、表に出そうとしてきた」

〇回想・マンション・501号室・鮎沢の部屋(1年前)
T「1年前」
ベッドに鮎沢(24)と双葉(24)。
双葉「私、いつか自分のお店持ちたい。今日ね、昔の私みたいなお客様がいたの。自分を責めてた。私、そういう人に光をあげたいって思ってる。昔、シンが私にしてくれたみたいに」
鮎沢「どういうこと?」
双葉「シンに言ってもらった言葉、今もここに(胸に手を当てる)残って私を照らしてくれてる。『いい言霊をいっぱい世の中に出していけばいい』って。あの言葉で救われたの。生きていい、話してもいいって赦された気がした。そんな風にその人を照らし続けるような、光になる言葉、かけてあげたい。そういう光で包まれるようなお店、いつか作りたい」

〇回想・同・同・リビング(1年前・日替わり)
双葉と鮎沢、反対側に鵜月原が座っている。
双葉の声「私がした『いつか』の話をシンは『すぐに』実現させた」
鵜月原、店舗物件の資料をテーブルに広げる。
鵜月原「ちょうどいい物件があって。資料持ってきた」
鮎沢「ありがとう。見せて」
鮎沢、資料を見る。
鮎沢「いいじゃん。さすがウッキー。今から見れる?」
双葉「え? ちょっと待って! 何これ」
鮎沢「何って双葉の店。いつかやりたいって言ってたじゃん」
双葉「それは『いつか』の話。今年とか来年は『いつか』って言わないでしょ」
鮎沢「『いつか』やるつもりなら『今』やり始めないと」
双葉「・・ちょっと、ウッキーさんからも何か言ってください。私、ネイリストとしてもまだまだですし、自分のお店なんてとんでもないです」
鵜月原「怖いよね、自分の店持つのなんて。でもシンは思い付きで言ってるわけじゃないよ」
鮎沢「そう、これはビジネスの話。俺、あれから双葉の店から出てくる客の様子見たり、店の売上とか双葉の指名客とかSNSの口コミとか色々調べたんだよ。充分イケると思ってる。これ、ウッキーにも送った資料」
鮎沢、タブレットを双葉に渡す。
双葉、タブレットの資料を見る。
双葉「え? いつの間に?」
鮎沢「俺さ、なんかそういうの、分かるんだよ。この店なら売れるとか、そういうの。だけど勘だけじゃだめだからさ。そのための資料を作ったし、稼げるって確信してる。それが今の俺の仕事」
双葉「でも、お客さん来なかったら? 簡単につぶれちゃう・・」
鮎沢「それをつぶさないようにするのも、俺の仕事。双葉は今と同じように目の前のお客さんに全力で向き合えばいいだけ」
双葉「そんなこと言われても・・それに私、お店持つとか、そんなお金ないし」
鮎沢「そういうのも俺の仕事。投資して、回収するの」
双葉「そうなんだ・・」

〇ネイルサロン・店内(夕方)
店内を見回す双葉。
双葉の声「私が『いつか』と言っていたお店が、つぶやいてからたった1年後に実現してしまった」
入口が開き、男性が入ってくる。
双葉の声「そう。この人がいたから」
鮎沢である。
鮎沢「予約した、鮎沢です。これ」
鮎沢、双葉にパズルのピースを渡す。

〇回想・マンション・501号室・リビング(3か月ほど前)
T「3か月ほど前」
キャリーケースを手に双葉の前に立つ鮎沢。
鮎沢「双葉・・ごめん」
鮎沢、ジグソーパズルのピースを1つ、双葉に見せる。
鮎沢「これ、借りてく。絶対返しに来るから、待っててほしい」

〇ネイルサロン・店内(夕方)
双葉、鮎沢からパズルのピースを受け取る。
双葉、手の上のピースを見つめ、泣いている。
鮎沢「双葉?」
双葉「・・バカ」
鮎沢「え?」
双葉「私がどれだけ心配したと思ってる? 不安だったか分かってる? もう戻ってこないと思った。起業メンバーの、あの、綺麗な人と付き合ってるんでしょ?」
鮎沢「え? (考える)葉月のこと?」
双葉「知らない。一果から聞いた。すごーく仲良さそうにしてたって。ミノル君が目撃したって」

〇回想・オフィス(夜)
鮎沢、ソファで眠っている。
足立、弁当が入った袋を持って入っていく。
足立「こんばんは~毎度、ありがとうございます」
鮎沢の同僚の葉月(25)、鮎沢の頬にキスをする。
葉月「シン、お弁当届いたって」
葉月、足立の方を見て微笑む。
動揺する足立。
鮎沢、目を覚まし
鮎沢「葉月、お前いい加減にしろよ。ミノルが誤解するだろ」
鮎沢、服で頬を拭く。
葉月、足立に現金を渡す。
足立、ボーっとしているが、はっとして、ウエストポーチからお釣りを出そうとする。
葉月、足立の手を触り、首を横に振る。
葉月「(足立の耳元で)誰にも言わないでね。お釣りはいらないから」
葉月、足立の目を見て微笑み、口の前に指を立て、その指で足立の鼻を触る。
葉月「回れ~右」
鮎沢「ミノル~葉月はからかってるだけだからな」
足立、ボーっとしたまま回れ右をして出て行く。
足立「葉月さん・・いい匂い・・」

〇ネイルサロン・店内(夕方)
鮎沢、吹き出す。
鮎沢「あ~あれな」
鮎沢、双葉を抱きしめる。
鮎沢「今、すっげー嬉しい」
双葉「ちょっと! 分かってる? 私、怒ってるんだけど」
鮎沢「うん。双葉に怒られたかった。いっつも俺の言うことに応えてくれて、いっつも笑顔でいてくれて。俺に怒った顔も、泣いた顔も初めて見た。ヤバい。掴まれた」
双葉「ねえ、ごまかそうとしてるでしょ?」
鮎沢「どう思われてもいい。もう少しだけこのままがいい・・」
双葉、諦めたように鮎沢に体を委ねる。

〇同・外観(夜)
シャッターが閉められ、『CLOSE』の札がかかっている。

〇同・店内(夜)
鮎沢、リクライニングチェアで眠っている。
双葉、ハンドマッサージを終え、鮎沢を見つめる。
寝ている鮎沢に双葉、キスをする。
鮎沢、目を開ける。
双葉「おかえり」
鮎沢「ただいま」
鮎沢、双葉を見つめ、抱き寄せ、キスをする。

〇マンション・501号室・リビング(夜)
双葉、鮎沢に手を引かれるようにして、入ってくる。
暗い部屋の中がLEDの星で飾られている。
テーブルが月の形のライトで照らされている。
双葉「懐かしいね、これ。綺麗・・」
テーブルの上にケーキと水琴からもらった指輪。
ケーキには『愛してる 双葉』と書かれている。
鮎沢、双葉を抱きしめる。
鮎沢「店、おめでとう。さすが俺の彼女」
双葉「ありがとう。でもすごいプレッシャーだった」
鮎沢「プレッシャー? いやいや、応援。双葉ならできるって分かってたし」
双葉「そんな・・」
鮎沢「いや、本心。・・店のこと、俺がちゃんと見るつもりだったんだけど、担当変わっちゃってごめんな。大変だったろ。でも双葉らしい、いい店になってた」
双葉「うん・・ありがとう」
鮎沢「お母さんのことは残念だったけどさ、もし双葉が、高校卒業して、そのまま専門学校に入ってネイリストになってたら、今みたいな店、出来てなかったと思う。」
双葉、頷く。
鮎沢「それに、もしそのことがなければ、俺が双葉に出会えてなかった。それは、この世界にとっての痛手だな。あのアプリも双葉の店もできてなかったと思うし」
双葉、吹き出す。
双葉「すごい自信」
鮎沢「・・愛してる。これからはずっと一緒にいたい。もう双葉に会えない生活は嫌だ」
双葉、頷く。
双葉「あ、でも、葉月・・さんとは? いいの?」
鮎沢「いいもなにも。俺、双葉以外に・・する気にならないし」
双葉「じゃあなんでキスされるわけ?」
鮎沢「知らないよ。寝てたらキスされたの」
双葉「あ・・」
鮎沢「双葉もしただろ。さっき。不可抗力。俺のせいじゃないから」
双葉「もう! 無駄にカッコいいから悪いんじゃん」
鮎沢「無駄ってどういうことだよ。カッコいい彼氏の方がいいだろ」
双葉「そうだけど・・フェロモン出しすぎなんじゃないの?」
鮎沢「あの、耳の後ろのやつ?」
双葉「うん・・また嗅いでもいい?」
鮎沢「・・いいけど、ベッドでもいい?」
双葉、頷く。
鮎沢、双葉の手を取り一緒に鮎沢の部屋に入っていく。

〇同・同・鮎沢の部屋(夜)
鮎沢、双葉を大切なものを扱うようにベッドに寝かせる。
双葉の声「シンのキスを最初に受け入れた時、正直シンのことはよく知らなかった。私自身が好きというより、凌さんが好きな『鮎沢シン』という人を知りたかった」
鮎沢、双葉にゆっくりとキスをする。
双葉の声「でもキスからは、シンの気持ちが伝わってきた。ああ、この人は本当に私のことを好きなんだって感じた」
二人、目を開けて微笑み合う。
双葉の声「シンと出会って私は変わった」
X X X
(フラッシュ)
食品工場。
クリーン服で働く双葉
X X X
双葉の声「声を出すことをやめ、息をすることにも気を遣い、自分を削りながら、目立たないように、迷惑にならないようにと神経を尖らせて生きていた私を、シンは連れ出してくれた」
X X X
(フラッシュ)
商業施設内のネイルサロン。
ネイリストで働く双葉
X X X
双葉の声「私は戸惑いつつ、こういう部分も凌さんを魅了したのだと知った。自分がいいと認めたものを全力で応援しようとする姿勢。圧倒的な肯定力。私の中にいる私も知らない自分を引き出されていく感覚。それはまるで魔法だった」
X X X
(フラッシュ)
写真。
鮎沢と一緒に乗馬をする双葉
鮎沢と一緒にパラグライダーをする双葉
鮎沢と一緒にダイビングをする双葉
X X X
双葉の声「シンデレラのかぼちゃの馬車、美しいドレスのように、夢にみたものが目の前で一つずつ形になっていく様を見て、私は死にかけていた『石川双葉』という人間が息を吹き返していく奇跡を目にした」
X X X
(フラッシュ)
双葉のネイルサロン。
開店準備をする双葉
施術をする双葉
X X X
双葉の声「シンに出会ってからたった5年で・・」

〇洋食石川・外観
『CLOSE』の札がかかっている。

〇洋食石川・店内
双葉と鮎沢、入ってくる。
吾郎(55)、笑顔で出迎える。
吾郎「双葉・・おかえり」
双葉「お父さん、今まで心配かけて本当に本当にごめんなさい」
双葉、泣きながらお辞儀をしている。
吾郎、おろおろしながら双葉の頭を上げさせる。
厨房では樹(22)が調理をしながら笑顔で見ている。
X X X
テーブルに鮎沢が座っている。
双葉、オムライスをテーブルに並べ、座る。
吾郎と樹、厨房から出てきて座る。
吾郎「まさか君が双葉と結婚するとはね。一果ちゃんとするのかと思ってたよ」
双葉「ちょっと、お父さん」
吾郎「悪い悪い。でも・・(言葉に詰まりながら)双葉を連れてきてくれて、本当にありがとう」
鮎沢「いえ、僕の方こそ。双葉さんに出会わせていただき、ありがとうございました」
笑顔でオムライスを食べる4人。
カウンターには母親の笑顔の写真。
写真の前にはオムライスが置かれている。

〇墓地(日替わり)
石川家と書かれた墓。
双葉、鮎沢が墓の前で手を合わせている。

〇結婚式場・チャペル・外観

〇洋食石川・外観
『CLOSE』の札がかかっている。
貼り紙『店主都合により臨時休業 大変申し訳ありません』
店の前にはタクシーが止まっている。

〇同・店内
慌てた様子の吾郎。礼服を着ている。
スーツ姿の樹、ドアの前で立っている。
樹「父さん、今日は前撮りだけだからそんなにかしこまらなくたっていいって、姉ちゃん言ってたじゃん。もうタクシー来たよ」
吾郎「いや、それでもさ・・樹、あ・あれは?」
樹「母さんの写真のこと? 持ってるから大丈夫!」
吾郎、靴を履きながら歩いてくるが、立ち止まる。
吾郎「あ! 靴下の色! これ、黒じゃないぞ!」
樹「大丈夫、目~細めれば黒に見えるから!」
樹、吾郎の手を取り、外に出る。

〇同・同・ホール
鮎沢と双葉、タキシードとウエディングドレスで向かい合っている。
鮎沢、双葉のベールを取り、二人、見つめ合う。
シャッター音。
ステンドグラスを背にした二人のシルエットの写真がジグソーパズルに変わっていく。
                     (片恋パズル・終わり)

【計画女と波乗りライオン】1話2024年04月26日 22:00

◯神浜海岸(朝)
朝日が海を照らしている。
海を見つめる1人の男。
男は太刀獅丸(20)。
髪は脱色して白く、肌は日焼けして黒い。
目鼻立ちがくっきりしている。
獅丸「いい波来てる〜 ヒャッホー」
楽しそうな様子でサーフボードとともに海に飛び込んでいく。

◯前浜市役所・戸籍住民課・窓口
戸籍住民課の案内札が見える。
窓口に神島海(22)が座っている。
胸元には「神島」の名札。
姿勢が良く真面目な雰囲気。
メガネをかけている。
対面には若い男女が座っている。
2人、仲良さそうに体を寄せ合い、手を繋いでいる。
海、手元の婚姻届と戸籍抄本を見比べながら、婚姻届に赤い色鉛筆でチェックし頷く。
『受理』スタンプを押す。
海「お待たせしました」
若い男女、笑顔で海を見る。
海「ご結婚おめでとうございます。確かに受理いたしました」
嬉しそうな男女。
微笑む海。
男女、立ち上がり去っていく。
男女を見送る海。
海の声「私は神島海。幸せな人生を送るためには計画が必要」
同僚の橘はるか(20)、海の後ろから声をかける。
はるか「坂木さん、じゃなかった、神島さん、窓口変わりますね」
海「ありがとう。じゃあ、お昼行ってきます」
海、立ち上がり席を替わる。

◯同・食堂
海、テーブルに座り弁当を広げ、手を合わせる。
海「いただきます」
海、弁当を食べ始める。
同期の男性社員・中村佑介(26)、カップ麺と水が乗ったトレーを持って海の前に座る。
中肉中背、黒髪、短髪の男性。
ワイシャツの上に『前浜市』と書かれた蛍光グリーン色のジャンパーを羽織っている。
佑介「よお、海。今日昼当番?」
海「うん。中村くんは? 遅いじゃん」
佑介「ああ、(ジャンパーを触り)観光課の仕事。昼に駅でチラシ配り」
海「そっか。大変そうだね」
佑介「まあ外に出てるほうが気楽だけどね。そういえばどう? 新婚生活は。順調?」
海「もちろん!」
佑介「そっか。なら良かった。海は完璧な人生計画立ててたもんな。22歳で結婚して23歳で子供・・だっけ?」
海「そう。23歳で女の子出産。その4年後、27歳で男の子出産。4歳差なら上のお姉ちゃんも落ち着いた頃だし、受験も重ならないでしょ。それから長男には調理師になってもらって、店を継いでもらう。定年まで働いたら、店を手伝いながら年金をもらって、優雅な老後を過ごすの。そのために貯金も運用もしてるし、公務員になった」
海の薬指に指輪が見える。
佑介「すごいよな、今のところ、計画通りだもんな。初期研修で聞いた時は『なんだこいつ』って正直引いたけど」
海「え? そんなこと思ってたの? ひどい」
海と佑介、笑う。

◯レストラン風・外観
海沿いに立つ洋食レストラン。
敷地内には広い駐車場。
看板には美味しそうなハンバーグの写真。

◯スマホのアプリ画面
妊活アプリ。
カレンダーに赤いハートマークがついている。

◯レストラン風・厨房
スマホを持つ手。
海の夫・神島太一(22)、微笑みながらスマホを操作している。
太一は黒髪で短髪。白いコックコートを着ている。
背は高く、少し神経質そうだが笑うと目尻にシワが出て、可愛らしい雰囲気を出している。
太一、スマホをポケットにしまい、自分の顔を両手で挟むように叩く。
太一「よし!」

◯前浜市役所・食堂
海、手を合わせている。
海「ごちそうさまでした」
海、弁当箱をバッグの中に入れる。
バッグからスマホを取り出しメッセージを確認。
太一からのメッセージ『今日はあの日だよね? 早く海に会いたい』
海、メッセージを見てニヤけている。
海の声「今は来年の出産計画に向けて妊活中」
佑介「うわ、キモ! 一人でニヤけてる奴がいる!」
海「は? 私のこと?」
佑介「他に誰がいるんだよ」
海「ホント中村くん失礼。でも許す。なぜなら私、今超幸せだから」
同僚「はいはい。そんなに結婚ていいもん?」
海「うん」
海の笑顔を見て微笑む佑介。

◯神浜・海岸
サーフボードを抱えた獅丸、海から上がってくる。
ウエットスーツを着ている。
獅丸に女の子が数人、集まってくる。
女A「リオン、今日はうちに来てくれるよね?」
女B「ううん。うちだよね? 今朝そう言ってくれたじゃん」
女C「嘘! 連泊なんてズルい! リオンくん、今日こそうちだよね?」
獅丸「あ〜、どうしようかな~ じゃあ、今晩はみんなのとこ順番に行っちゃおう!」
女A「え? ホント!?」
女の声「シシ〜 電話! 早く来い!」
声の方を見る獅丸。
声の相手はサーフショップのオーナー、葉月薫(50)。
獅丸、手を振り
獅丸「今行きます!」
獅丸、走り出し、振り返りながら女の子達に手を振る。
獅丸「ごめん、また連絡する!」
女の子達、不服そうだが、諦めて帰りだす。

◯サーフショップ『リーフサーフ』・店内
獅丸、入ってくる。
薫、カウンター内で座っている。
黒髪、日焼けしているせいか肌の色は濃く、痩せて引き締まった体。
獅丸「すみません、薫さん。電話、誰からですか?」
薫「電話? ああ、あれ、嘘」
獅丸「え?」
薫「シシ、ファンとはするなっていつも言ってるだろ」
獅丸「してませんよ。昨日だってただの添い寝です、添い寝バイト」
薫「あんたが何もするつもりなくても、向こうはそうじゃないかもしれないだろ。ちゃんと一線引いとけ。添い寝バイトなんてやめろ」
獅丸「すんません」
薫「それから、次の大会で結果出して、スポンサー、ちゃんとゲットしな。で、自立してうちからも出てって、早く一人暮らししろ」
獅丸「え〜、薫さん、ひどい。僕にそんなことできないって分かってるじゃないですか。見捨てないでくださいよ〜 僕と薫さんの仲じゃないですか! これからも楽しく助け合いながら暮らしましょうよ」
薫「は? まさかうちにずっと居座る気? あんたがいるせいで彼氏も作れない」
獅丸「もう3回も結婚したんだからいいじゃないですか。まだ結婚するつもりですか?」
薫「もちろん。結婚に回数制限はない」
獅丸「まあそうですけど・・ でも僕、薫さんに彼氏ができても、その人と仲良くできる自信ありますよ。僕のことなんて気にせず恋活してください。あ、それに僕、介護とかも多分得意です。老後のことは心配しないでください」
薫「うっさい! あんたが良くても私が嫌なの。それに今から私の老後心配されたくないわ」
獅丸と薫、笑う。

◯葉月家・獅丸の部屋(夜)
獅丸、ベッドに座り、自分のサーフィンの動画を見ている。
獅丸の声「僕は太刀獅丸。先のことなんて考えても仕方ない。計画してもその通りになるとは限らない。だから今目の前にあることを頑張るだけ」
獅丸、おもむろにベッドの上に立ち、サーフィンの動きをしている。
ドアが開き、薫が顔を見せる。
獅丸「うお!」
獅丸、慌ててベッドに座りスマホを体の下に隠す。
獅丸「薫さん! ノックしてください!」
薫「あ、ごめんごめん。エロ動画でも見てたか」
獅丸「そ、そうです! だからノックしてほしいっていつも言ってるじゃないですか」
薫「よしよし、健全健全。健全な男の子はさっさと風呂入っちゃいな」
薫、ドアを閉める。

◯同・同・ドア前(夜)
薫、微笑んでいる。
X X X
(フラッシュ)
獅丸の部屋。
獅丸、ベッドの上に立ち真剣な顔でサーフィンの動きをしている。
X X X
薫「可愛いヤツ」

◯神島家・海の部屋(夜)
整頓された部屋。
壁のフックには翌日の洋服がセットされている。
海、デスクに座り、スケジュール帳に記入している。
昨日まで斜線が引かれたスケジュール。
今日のところには『妊活』の記載がされている。
海、今日の部分に斜線を引き、スケジュール帳を閉じる。
海「よし、順調順調」
海、スケジュール帳をバッグに入れ、バッグを椅子の上に置く。

◯同・太一の部屋(夜)
ノックの音。
太一、ドアを開ける。
パジャマ姿の海、照れた様子でうつむきながら立っている。
太一、微笑みながら海の手を取り部屋に入れる。
太一「どうぞ、奥さま」
太一、ドアを閉める。
二人、ぎこちない感じで抱き合う。

◯前浜市・情景(朝)
住宅街に朝日が差している。

〇神島家・海の部屋(朝)
海、ベッドに寝ているが、目を開ける。
ベッドサイドのスマホを手に取り、アラームが鳴る前に止める。
海の声「朝は5時に起床」
海、ラジオ体操をしている。
海の声「体操をし、6時までに身支度をすませ」

◯神島家・ダイニング(朝)
海、料理をしている。
海の声「7時までにお弁当作りと朝食を済ませる」
海、弁当箱をバッグに入れている。
海の声「毎日を計画通りに生きることが、私の幸せ」
太一、入ってきて海を笑顔で見つめている。
太一「おはよう」
海「あ、おはよう。ごめん、起こしちゃった?」
太一「ううん。海が仕事行く前に会いたくて」
海「フフ。あ、そうだ、前にも言ったけど、今日帰るの少し遅くなるね。て言っても閉店までには帰るけど」
太一「マコちゃんとご飯だっけ?」
海「そうそう」
太一「うん、分かった。マコちゃんによろしくね」
海、笑顔で頷く。

〇前浜市役所・戸籍住民課・窓口
海が座っている。
手元のスイッチを押す。
機械の音声「118番でお待ちの方、お待たせいたしました」
住民、窓口に来る。
住民「すみません、住民票が欲しいんですけど、書き方がよく分からなくて」
海「分かりにくいですよね。何に使われますか?」
海、住民の手元の申請用紙を受け取り確認する。

〇レストラン風・厨房
太一、寸胴を前に立っている。
寸胴の中にはデミグラスソース。
父・神島幸一(52)、味見をしている。
幸一「まだ出せないな」
太一「分かりました。またお願いします」
太一、頭を下げる。

〇前浜市役所・ロッカールーム(夕方)
海、着替えをしている。
はるか、入ってくる。
はるか「お疲れ様でした。海さん、今日早いですね」
海「うん、友達とご飯の約束があって」
はるか「いいなぁ。どこ行くんですか?」
海「駅前の『メゾン』?『セボン』? 新しくできたとこ」
はるか「確かセゾンだと思います。いいな~ 美味しかったら教えてください」
海「うん、良かったら今度一緒に行こうね。じゃ、お先~」
海、出て行く。
はるか「ホントですか?! 海さん、絶対ですよ~ って聞いてないし」
既に海はいない。

◯カフェ・店内(夜)
海と海の友人、井上マコ(22)が座っている。
マコは茶髪ボブ。背は低め。
丸顔で可愛らしく優しい雰囲気。
マコ「ね〜海、お願い。付き合ってよ」
海「うーん。マコのお願いなら聞いてあげたいけど・・ボディボード? 何それ? 知らないし・・」
マコ「ビート板みたいのに乗って波乗りするの。サーフィンよりも簡単だし、乗ってる姿も可愛いの。見て」
マコ、スマホの画面を見せる。
海「ふーん」
マコ「それに、もう海の分もスクール申し込んじゃったし」
海「え?」
マコ、拝むように手を合わせる。
マコ「お願い! 私の恋が叶うかどうかかかってる! 私も海みたいに結婚したいの!」
海「ちょ、ちょっと待って。どういうこと?」
マコ、スマホの写真を見せる。
マコと映る男性・黒木賢(27)。サーフボードを抱え、笑顔で映っている。
黒髪で色黒。爽やかな青年。
マコ「黒木賢くん。消防士で、サーファーなの」
海「え? カッコいいけど、どうやって知り合ったの?」
マコ「徹くんて覚えてる? この前紹介してもらったの。こんな彼氏がいたらヤバイよね。悶える」
海「じゃあ私とビート板してるよりサーフィンした方がいいでしょ。その彼に教えてもらってさ」
マコ「だってサーフィン難しそうじゃん。道具だって高いし。ていうか、賢君の前の彼女も、やってたみたいなの。ボディボード。ね、お願い! こっそりできるようになって驚かせたいの!」
海「う・・ん・・分かった。太一に相談してみる」
マコ「ありがと! 良かった〜」

◯サーフショップ『リーフサーフ』・店内(日替わり)
マコと海、緊張した顔で立っている。
薫「二人ともМで良さそうね」
薫、二人にウエットスーツを渡す。
薫「水着の上からこれ、着てみて」
マコと海、頷いて受け取る。

◯同・試着室前
マコと海、試着室のカーテンを開ける。
薫が腕組みしながら前に立っている。
薫「うん、大丈夫そうね。じゃあ、ここで交代。シシ〜」
獅丸の声「あ、今行きます」
X X X
薫、獅丸の肩に手を置いている。
薫「インストラクターの太刀獅丸君ね」
マコと海、獅丸の風貌を見て動揺し、瞬きをしている。
薫「じゃあ、二人とも楽しんできてね」
薫、手を振る。
獅丸「よろしくお願いします。じゃあ、早速行きましょう」

◯神浜・海岸
獅丸を先頭にマコと海が歩いている。
3人ともボディボードとフィンを抱えている。
獅丸「お姉さんたちはおいくつですか?」
マコ「あ・・いくつに見えます?」
獅丸「すみません。正解の答え方全然わかんないんですよ。あの、僕20歳なんですけど、僕より年上か年下かだけ教えてもらっていいですか?」
マコ「フフ、上〜 見て分かるでしょ」
獅丸「いや、もし間違えたら凍るじゃないですか。で、お姉さんたちに帰られちゃったら、うちのサーフショップ終わるんで。薫さん、あ、さっきの怖そうなお姉さんにボコボコにされます」
マコ「またまた〜」
獅丸「いや、ホントです。僕には容赦ないんですよ、あの人」
マコと海、笑う。
獅丸「じゃあ、え~と、海さんは・・」
海、手を挙げる。
獅丸「(それぞれに顔を向けながら)海さんとマコさんですね。僕のことは獅丸と呼んでください」
マコ「獅丸先生ですね」
獅丸「いや、先生とかやめてください。僕なんかには呼び捨てぐらいが丁度いいんで」
マコ「何それ」
マコと海、笑う。
X X X
波打ち際の近くで止まる。
獅丸「じゃあ、一旦この辺でこれ置きましょう」
全員、砂の上にボードとフィンを置く。
獅丸「お二人とも泳ぎは得意ですか?」
マコと海、顔を見合わせる。
マコ「得意とは言えないですけど、一応は泳げると思う・・」
海「学校の授業くらいしか・・」
獅丸「オッケーです。ちなみに今日は足がつかないところにも行きます。そして(海を指しながら)海はプールと違って波もあります」
マコと海、不安そうな顔をする。
獅丸「大丈夫です。この神浜は遠浅なので、急に深くなったりはしません。それとこのボードは必ず浮きます。この紐、リーシュコードというんですが、これを腕につけるので体から離れません。それに、僕がいます」
マコと海、不思議そうな顔をする。
獅丸「一応僕、ライフセーバーの資格持ってるんで。もし溺れたら絶対助けます」
獅丸、二人を見て笑顔でポーズを決めて見せる。
海とマコ、笑う。

◯レストラン風・外
求人の紙が貼られている。
『スタッフ急募』
清水美羽(しみずみう)(16)、求人の紙をじっと見つめている。
美羽は色白で黒髪。
長い髪をポニーテールにしている。

◯同・店内
太一、太一の両親、パートとアルバイトスタッフが昼食を食べている。
バイトの岡田(20)「あれ? そういえば今日、海さんは?」
太一「ああ、友だちとサーフィン行ってる」
岡田「海さん、サーフィンなんてするんですか!? 意外です」
太一「なんか友達に頼まれて仕方なくって言ってた。今日はスクールだって」
岡田「そういうことですか。自分から行くようなタイプじゃなさそうですもんね」
入口が開く。
美羽、入ってくる。
太一、立ち上がり、
太一「すみません。昼の営業は終わってしまったんですけど・・」
美羽、立ち止まり、太一に見とれている。
太一「あの・・昼の営業は――」
美羽「あ、すみません。表の『スタッフ急募』っていうの見たんですけど・・」
太一「あ、バイトの?」
太一、振り返り母親の神島仁枝(50)を見る。
仁枝、立ち上がり、美羽の方に歩いてくる。
仁枝「バイト? 助かるわ~ いつから来れる?」
美羽「あ、今日からでも大丈夫です」

◯神浜・海岸
獅丸、砂浜の上にボードを置き、乗り方を教えている。
マコと海、獅丸を見ながら同じようにボードに乗っている。
獅丸「じゃあ、海に入る前にストレッチしましょう」
マコと海、獅丸を見ながら同じようにストレッチをしている。

◯レストラン風・フロア
隅の方の席。
仁枝と太一が座っている。
反対側、向かい合うように美羽が座っている。
仁枝「アルバイトは初めて?」
美羽「あ、はい。・・ダメでしょうか?」
仁枝「ううん。そうじゃなくってね。履歴書って知ってる?」
美羽「いえ。すみません。何も知らなくて・・」
仁枝「悪いことしてるわけじゃないんだし、謝らなくていいの。ちょっと待ってて」
仁枝、立ち上がり店の奥へ行く。
太一「高校生?」
美羽「あ、はい。高校1年生です」
太一「そっか。あ、ホールとキッチン、どっちが希望?」
美羽「? ホールって・・何ですか?」
太一「あ、注文聞いたり、料理運んだりする人のことだよ」
美羽「ちなみに(太一を手で示しながら)お兄さんは・・」
太一「僕は調理・・あ、キッチンの方」
仁枝、席に着く。
仁枝「あ、ごめんね。お待たせ」
テーブルに履歴書とボールペンを置く。
仁枝「これが履歴書ね。今書いてく?」
美羽「いいんですか?」
仁枝「もちろん!」
美羽、教わりながら書き始める。

◯海
獅丸、マコ、海の3人、横並びで泳いでいる。
海「獅丸君の髪の色は、地毛ですか?」
獅丸「え? 海さん正気ですか? こんな顔でこんな地毛の日本人いると本気で思ってます?」
海、獅丸の言い方が可笑しく、笑う。
海「もしかしたらって思って」
獅丸「僕、憧れの人がいるんです。その人みたいになりたくて脱色してるんですよ。毎回頭皮に超しみて泣いてるんですけど」
海「そうだったんだ? でもいいね、そういう憧れの人いるの」
獅丸「はい」
獅丸、微笑み沖の方を見つめる。
獅丸「あ、この辺から多分足がつかないです」
海「え? 嘘!」
海、ボードにしがみつく。
獅丸「嘘です」
海、ボードに乗ったまま足を伸ばしてみるとフィンの先が砂に着く。
海「え、ひどい〜」
獅丸、笑う。
獅丸「すみません。でも結構ギリギリですよね? 後ろ見てください。結構沖に来ました」
マコ「本当だ〜」
獅丸「フィン付けてると意外とスピードが出てるんですけど、気付きづらいんです。たまに後ろとか横見て自分のいる位置を確認した方がいいです」
マコと海、頷く。

◯レストラン風・店内
仁枝、美羽の書いた履歴書を見ている。
仁枝「うん。いいわ。あとはご両親どちらかにこの承諾書書いてもらえる?」
仁枝、承諾書を渡す。
美羽「え? 今から働きたいんです。無理ですか?」
仁枝「そうね。お店としては今からでもお願いしたいんだけど、美羽ちゃんはまだ高校生だし。ごめんね。決まりだから」
美羽、泣きそうな顔をする。
仁枝「ごめんね~」
美羽、首を横に振り、
美羽「私こそすみません。すぐにお母さんに書いてもらいます」
美羽、承諾書をカバンに入れ、立ち上がり、お辞儀をして出て行く。

◯海
獅丸、ボディボードに乗り、波の上を滑っている。
海「嘘! あれ、獅丸君? カッコいい・・」
マコ「うん! あんな風に乗れたらいいね~」
マコと海、顔を見合わせて笑う。
獅丸、マコと海のところに戻って来る。
獅丸「じゃあ今みたいな感じでやってみましょう。マコさん、どうですか?」
マコ「はい!」
獅丸「じゃあ僕が合図したらさっき練習したバタ足です。波に押される感覚が来たら、体を波に任せます。いいですね。じゃあ体の向きを変えてください」
マコ「はい!」
マコ、体の向きを変える。
波が来る。
獅丸「今です! マコさん、バタ足です!」
マコ、波に乗り滑っていく。
海「すごい! マコ、乗れてる!」
獅丸「じゃあ次は海さん、行きましよう」
海、頷き、体の向きを変える。
波が来る。
獅丸「今です! 海さん! バタ足です!」
海、バタ足をするが波に乗れず、巻かれてしまう。
海の姿が消える。
獅丸「あれ?」
X X X
(フラッシュ)
ボードにしがみつく海の姿。
X X X
獅丸「ヤバ!」
獅丸、海が消えた場所に向かい泳ぎ始める。

◯海中
体が回転し、もがく海。
視界は泡で真っ白。
海の声「え? なにこれ、怖い。どっちが上?」
パニックで手をバタバタさせる海。
海の背後から手が伸び、脇を抱えられて体がホールドされ、海面に向かって上昇する。

〇海
海面に顔を出し、咳き込む海。
波から守るように立ち泳ぎをしている獅丸。
獅丸、海のボディーボードを手繰り寄せ、海の体に当てる。
獅丸「海さん、分かりますか? これに掴まってください。もう大丈夫です」
海、咳き込みながら頷く。
マコ、寄ってくる。
マコ「大丈夫? 何があったの?」
獅丸「多分波に巻かれました。怖いですよね、あれ。すみません」
海「ううん。助けてくれてありがとう」
海の手が震えている。
獅丸、海の手を握る。
獅丸「少し海から上がって休みましょう」
海、マコを見る。
心配そうな顔のマコ。
海「ううん。大丈夫。もう一回やってみたいし」
マコ「無理しなくていいよ~」
海「無理じゃないよ。このままだと悔しいし。獅丸君、ありがとう。もう大丈夫」
海、獅丸に向かってほほ笑み、獅丸、頷いて体を離す。
3人、沖に向かって泳ぎだす。

〇海岸
獅丸、マコ、海の3人が歩いている。
マコ「あ~楽しかった」
獅丸のファンの女性数人、獅丸を見つけ、
女性A「あ、リオンくん!」
女性B「リオンく~ん!」
ファンの子たち、獅丸に向かって手を振っている。
獅丸、手を振り返す。
獅丸「こんにちわ~」
マコ「え? リオン君て?」
獅丸「ああ、僕のあだ名です。昔、あの子にプレゼントもらったんですよ。ほら、僕の名前、獅丸の獅ってライオンじゃないですか。だから英語で『ライオン』て書いてあったんですけど、僕、バカだから読めなくて。『リオンて何ですか?』って」
獅丸、ボディボードに貼られた『LION』の文字を指差し笑う。

◯サーフショップ『リーフサーフ』・店内
テーブルにマコと海、座っている。
薫、カウンター越しに話す。
薫「どうだった? 乗れた?」
マコ「はい、すっごく楽しかったです」
海「私は・・ダメでした」
マコ「でももう少しだったよね」
海「うん」

◯回想・海中
体が回転し、もがく海。
視界は泡で真っ白。
パニックで手をバタバタさせる海。
海の後ろから手が伸び、脇を抱えられて体がホールドされ、海面に向かって上昇する。

◯サーフショップ『リーフサーフ』・店内
海、テーブルの下で自分の手を握る。
獅丸「お待たせしました」
獅丸、コーヒーを置く。
マコ「え? なんですか?」
薫「コーヒー。今練習中なんだって。飲んでやって」
獅丸「あ、コーヒーもしかして苦手ですか? ミルクとか砂糖いります?」
マコ「ううん、大丈夫。そのままで飲める」
獅丸「海さんは? 大丈夫ですか?」
海、頷く。
海「ブラックで大丈夫」
マコと海、コーヒーを飲む。
海「あ」
獅丸「あ、ってなんですか? ちょっと海さん!」
海、笑う。
海「意外と美味しい・・かも」
獅丸「なんですか、それ。『意外と』とか最後の『かも』とか、いります?」
薫「おいおい、シシ。練習に付き合ってくれてるのに失礼だろ」
獅丸「すんません」
薫「マコちゃんは?」
獅丸、マコの顔を見つめる。
マコ「そんなに見られてたら言いづらい」
薫「正直に言ってやって。その方がこの子のためだから」
マコ「美味しいんですけど、私はコンビニのコーヒーの方が好きかも」
獅丸「うぉー、コンビニコーヒーに負けた! これ、すっごいいい豆なのに!」
薫「マコちゃんありがとね~ シシ、まだまだだな。豆に謝れ」
全員、笑う。

◯レストラン風・店内
美羽、入ってくる。
美羽「おばさん、すみません! 持ってきました!」
奥から仁枝、出てくる。
美羽、承諾書を差し出しお辞儀をする。
仁枝「え? 美羽ちゃん? 今日持ってくると思わなかった! どう? 見せて」
仁枝、承諾書を見ている。
美羽「あの・・これで今日から働けますか?」
仁枝、美羽を見て笑顔で頷く。
美羽「ありがとうございます!」

〇サーフショップ『リーフサーフ』・店内
マコ、ウェアなどを見ている。
海、マコの横に立ち、見ている。
海「本当に今日揃えるの?」
マコ「だって今日だったら10%引きだよ? 買うしかないじゃん。ねえねえ、賢くんの彼女だったらこういう感じかなぁ?」
マコ、ウェアを自分の体に当てて海に見せる。
海「うん、似合ってる。かわいい」
マコ「海は? 買わないの?」
海「私は・・まだいいかな」
マコ「じゃあさ、またスクール一緒に来ようよ! 今度こそ大丈夫だって!」
マコ、海の手を取り跳ねる。

〇レストラン風・厨房(夕方)
隅のテーブル。
折り畳み椅子を仁枝、広げて置く。
横に美羽が立ち、見ている。
仁枝「美羽ちゃん。折り畳みの椅子はいつもあそこにあるから。食べるときだけ広げて、食べ終わったら片付けるのよ」
美羽「はい」
仁枝、テーブルにまかない料理が乗ったトレーを置く。
仁枝「じゃあ、今のうちに食べちゃって」
美羽「あのこれって・・」
仁枝「まかない。働いている人たちには、おばさんが作るの」
美羽「お金は・・」
仁枝「これはお金はいらないの」
美羽「え、そうなんですか! ありがとうございます!」
仁枝、微笑む。
美羽「あの・・食べきれない分は持ち帰ったりしても大丈夫でしょうか?」
仁枝「何言ってるの。若いんだからこれくらい食べなきゃダメ」
バイト、慌てた様子で入ってくる。
バイト「奥さん、すみません。自治会の人が来てて・・」
仁枝「あ、そう。今行くわ。じゃ、美羽ちゃん、ここではダイエット禁止ね!」
仁枝、出て行く。
美羽、手を合わせた後、戸惑いながら食べ始める。

〇サーフショップ『リーフサーフ』・店内・レジ
薫、マコが持ってきたウェアなどのグッズのバーコードを読み取っている。
マコ、嬉しそうに薫の様子を見ている。

〇同・同・テーブル
海、マコの様子を見ている。
獅丸、来る。
獅丸「今日はすみませんでした」
海「え? なんのこと?」
獅丸「あ・・せっかく来てもらったのに1本も乗れなくて」
海「あぁ、いいのいいの。私は付き添いだし。マコは乗れたから。獅丸君のおかげ」
獅丸「いやいや、インストラクターとして失格です。本当は乗れなかったらタダにしてあげたいんですけど、(薫の方を指す)うるさい人がいるんですみません」
薫の声「おい、シシ~ なんか言ったか?」
獅丸「いえ、立派なオーナーだって褒めてました! 海さんが!」
薫の声「ホントか~? 悪口だったらシメルぞ!」
獅丸「ね、僕には容赦ないでしょ?」
海と獅丸、笑う。
海「あ・・獅丸君。あのね。今日みたいなこと、獅丸君も経験あるの?」
海、ギュッと自分の手を握る。
獅丸「あ~・・巻かれることですか? 普通にありますよ?」
海「そうなんだ・・そういう時、どうするの?」
獅丸「収まるのを待って、ボードをたぐります」
海「え? そうなの?」
獅丸「自然の力に逆らうの、無理ですから。この浜だったら、せいぜい1分くらいですけど、もっと長く感じますよね」
海「うん。ごめんね。なんか怖くなっちゃって」
獅丸「確かに、初めてでああなったら結構くじけますよね。でもタイミングとか、波の形とかにもよるんで。海さんのせいじゃないです。だから次回は絶対成功させましょう。あ、3回セットのお得なコースもありますよ?」
海、笑う。
海「ありがとう。それから、今日は・・助けてくれてありがとう」
獅丸「いえ。これに懲りずにまた来てください。あ、予約とか、しちゃいます?」
獅丸、カレンダーを海に見せる。
海、笑う。

〇レストラン風・厨房(夕方)
美羽、まかない料理を半分ほど食べた状態で止まっている。
太一、来る。
手には持ち帰り用の容器。
太一「大丈夫? さっきちょっと聞こえちゃったんだけど・・母さんに内緒で持って帰る?」
美羽、太一を見て頷く。
太一、微笑む。

〇同・フロア(夕方)
次々と客が入ってきている。

〇同・厨房(夕方)
忙しそうな様子。

〇同・厨房横(夕方)
海、慌てた様子で入ってくる。
海「すみません、遅くなりました」
エプロンを付けている。
仁枝、入ってくる。
仁枝「海さん、今日はいいのよ。ただでさえ平日仕事してるんだし」
海「でも、今日土曜日なんで一番忙しいですよね?」
呼び出し音が鳴る。
表示を見ると注文待ちがたまっている。
海「ほら」
仁枝「ありがとう~ でも落ち着いたら早く上がってね」
海、頷いてフロアに出て行く。

〇同・厨房(夕方)
美羽、食洗器の前で作業をしている。
仁枝、入ってくる。
仁枝「ごめんね。まかせちゃったままで」
美羽「いえ。あの、今の方は・・?」
仁枝「ああ、あとで紹介するわね。海さん。太一のお嫁さん」
美羽「え? 太一さんて結婚してるんですか?」
仁枝「そうなのよ。なんだか『人生計画がある』とかなんとか言って先月結婚したばっか」
美羽、複雑そうな顔をして太一の方を見る。
太一、忙しそうに調理をしている。

〇神島家・海の部屋(夜)
壁には翌日着る洋服がかかっている。
海、ベッドに腰かけスマホの写真を見ている。
パジャマ姿。
昼間撮ったサーフショップでの写真。
中央にマコと海、端に薫と獅丸が笑顔で映っている。

◯回想・海
獅丸、マコ、海の3人、横並びで泳いでいる。
海「獅丸君の髪の色は、地毛ですか?」
獅丸「え? 海さん正気ですか? こんな顔でこんな地毛の日本人いると本気で思ってます?」
海、獅丸の言い方が可笑しく、笑う。

〇神島家・海の部屋(夜)
海、思い出し笑いをしている。

◯回想・海
獅丸、ボディボードに乗り、波の上を滑っている。

〇神島家・海の部屋(夜)
海、獅丸の写真を見つめる。
海「波に乗っている獅丸君、かっこよかったな~」

◯回想・海中
体が回転し、もがく海。
視界は泡で真っ白。
パニックで手をバタバタさせる海。
海の後ろから手が伸び、脇を抱えられて体がホールドされ、海面に向かって上昇する。

〇回想・海
海面に顔を出し、咳き込む海。
波から守るように立ち泳ぎをしている獅丸。
獅丸、海のボディーボードを手繰り寄せ、海の体に当てる。
獅丸「海さん、分かりますか? これに掴まってください。もう大丈夫です」
海、咳き込みながら頷く。
海の手が震えている。
獅丸、海の手を握る。
獅丸「少し海から上がって休みましょう」

〇神島家・海の部屋(夜)
海、獅丸に触れられた手を触っている。
ノックの音。
太一、入ってくる。
海「あ、太一」
太一、海のスマホを覗き込み、
太一「あ、これ? 今日のスクール」
海「うん」
太一「楽しかった? え? 男?」
海「あ・・ううん。違うよ。この人はただの従業員。先生はこっちの女の人」
太一「ふうん。でも海、ちゃんと指輪、してた?」
海「してたよ~ 太一こそ、してないじゃん」
太一「無理だよ。そういう仕事だし」
海「分かってる分かってる」
太一、海を見つめベッドに倒す。
太一「海・・」
海、目を逸らし、
海「・・ごめん、太一・・」
太一、体を起こし
太一「分かってる。じゃあ、待ってるから」
太一、出て行く。

〇同・太一の部屋(夜)
太一と海、ベッドで寝ている。
海、目を開け太一の様子を見ている。
そっと体を離そうとする海。
太一、目を閉じたまま海に抱きつく。
太一「ねえ、海。たまには朝まで一緒にいようよ」
海「言ったでしょ。一緒だとよく寝れないの。寝れなかったら明日に影響するでしょ。そういう積み重ねで計画が狂うのは、嫌なの」
太一「たまにはさ、二人して寝不足の顔してるのも、新婚ぽくて嬉しくない?」
海「・・嬉しくない」
太一「・・(笑いながら)ごめん」
太一、海を抱きしめたまま頭にキスをする。
太一「・・しょうがない、今日は許す」
海「なにそれ、『今日は』って」
太一、海から体を離すが、手を握る。
海、ベッドから出ようとしたところ、手を握られ引き戻される。
海「太一~」
太一「ごめん」
太一、手を離す。
海、出て行く。
太一、ドアの方を見ないように体の向きを変える。

【計画女と波乗りライオン】あらすじ2024年04月26日 22:00

神島海は中学生の時に作った人生計画通りに生きている。
市役所で働き、先月結婚したばかり。

一方、計画なんて立てても意味がない、と自由奔放に生きる、太刀獅丸。

二人が自分の生き方を決めることになった出来事は何なのか。

そして、一見絡まりそうにない二人の運命が、
海の親友、マコによって結ばれていく。

恋愛ドラマです。

60分×10話予定

【計画女と波乗りライオン】ダイジェスト動画2024年04月26日 22:00

生成AIなどを使用し、ダイジェスト版の動画を作ってみました。

ご視聴いただければ嬉しいです。
https://youtu.be/kXm6RKxWwE0

・動画編集:canva
・キャラクター生成:ChatGPT
・音声:VOICEVOX
・音楽:suno