【片恋パズル】5話2024年03月01日 22:00

〇食品工場・食堂
一果と双葉、美保と真理子が昼食を食べている。
一果「美保さん、真理子さん、私、彼氏ができました!」
美保「え? 嘘! あの唐揚げ君と? 良かったね~」
真理子「すごいじゃん! おめでとう~」
一果「美保さんと真理子さんのおかげです。ありがとうございました」
美保「ううん。私たち、何もしてないし。で? 結局告白は一果ちゃんから?」
一果「あ・・はい・・」
美保と真理子「きゃ~~~!」
美保「がんばったのね。一果ちゃんの良さが彼に伝わったのよ。ホント良かった」
一果「でもね、今更なんですけど・・付き合うって何すればいいんですか?」
美保と真理子、顔を見合わせる。
真理子「改めて聞かれると困るんだけど・・二人でご飯食べに行ったり、映画見たり、買い物行ったり、旅行行ったりして、今よりもっと仲良くなろうとすることじゃないの?」
美保「体の方もね」
ガシャン!と音が聞こえる。
全員、音のする方を見る。
職長の新田誠(にったまこと・35)、立ち上がり、倒れたコップを元に戻している。
食堂のスタッフ、布巾などを持って駆け寄り、テーブルを拭いたり新田にタオルを手渡している。
全員、向き直る。
一果「で・・何でしたっけ」
美保「体も仲良くっていう話」
一果「は・・そうでした。そっか。そうですよね・・あの、ちなみにキス以上もありってことですよね」
美保「当たり前じゃない。いつの時代よ~」
一果「うわ・・なんか不安になってきた・・」
真理子「まあ、とりあえずは色んなとこ出かけたりしたら? 体の方はそれからでしょ」
一果「そうですよね。どこに行こう~ 悩む~」

〇同・男子更衣室前廊下(夕方)
美保と真理子、立っている。
新田、出てきて美保と真理子に気付く。

〇同・食堂(夕方)
美保と新田、座っている。
真理子、給茶機で入れたお茶を3つ持ってきてテーブルに置く。
真理子、座る。
美保「まこっちゃん。昼間、私たちの話、聞いてたでしょ?」
新田「いえ、とんでもないです。美保さんたちの話なんて聞いてないです」
美保、机をバン!と叩く。
美保「新田誠! 我らに嘘がつけると思っておるか~」
新田「美保さん、それ、パワハラです・・」
美保「あ~ごめんごめん、ちょっと楽しくなっちゃって。で? 一果ちゃんのこと気になってるのかな?」
新田「あ~もう、分かりましたよ。聞いてました。っていうか、聞くつもりなくても聞こえてくるんですよ。もっと小さい声で話した方がいいんじゃないですか?」
美保「だったらまこっちゃんが遠くの席に座ればいいだけじゃない」
新田「・・すみません。ちょっとあがきました。相原さんのことは、前から気になってます。あ、でも上司として、ですよ」
美保、無表情で新田を見つめ、机を叩こうとする。
新田「あ、すみません、すみません。上司としてだけじゃないかも・・です」
美保、無表情で新田を見つめ、机を叩こうとする。
新田「あ、すみません、すみません。恋人になりたいです!」
美保と真理子、笑う。
美保「ようやく素直になった~ まこっちゃんかわいい」
新田「もう、脅すのやめてくださいよ。あ~でも、そういう風に見てるってバレたら、今のご時世ハラスメントで僕のクビも飛ぶかもしれないんで。内緒でお願いしますよ。それにまだ何もしてませんし」
真理子「私たちでよければ協力するわよ」
新田「え? 相原さん彼氏できたばかりなんですよね? 美保さんも真理子さんも喜んでたじゃないですか」
美保「私たちはあくまでも一果ちゃんのミ・カ・タ。相手が誰でもいいのよ。一果ちゃんが幸せなら」
真理子「それに正直ちょっと厳しいと思うのよね。今の彼じゃ」
新田「え? どういうことですか?」
美保「お子ちゃまなのよ。当然よね。一果ちゃんと同い年だし」
新田「え? ハタチってことですか?」
美保「そうよ~ まこっちゃんのハタチを思い出してみて。目も当てられないでしょ」
新田「あの、確かにそうなんですが、他人に言われるのはちょっと・・傷つきます」
美保「あ~ごめ~ん~ でもほら、素晴らしい切り返し! 35歳の今ならできるでしょ? ハタチのまこっちゃんだったら・・顔赤くしてモゴモゴしてるだけで、できなかったわよね~」
真理子「ね~」
美保と真理子、顔を見合わせて微笑む。
新田「ま、まあ、美保さんたち手練れの方々に鍛えられましたから・・」
美保「ホホホ! 感謝しなさい! 日々の鍛錬の成果を見せるときが来たわ~」
新田「それが、相原さんにつながるってことですか?」
美保「そうそう。押すなら今。初めての彼ができて、でも何をするにもぎこちなくって彼も自分のこと好きって言ってくれない・・初めての彼氏って気負っちゃうから疲れるのよね~」
真理子「そんな時に年上の人から、優しく愚痴を聞いてもらって、『好きです』ってストレートに言われたら?」
美保と真理子「揺れるわよね~」
新田「は、はあ・・でもあの確認ですけど、本当にうまく行きます? 15歳も年、離れてますけど。恋愛対象になりますか?」
美保「何言ってるの! 『うまく行くかどうかじゃなく、うまく行くまでやり続けるんです』って言ってるの、まこっちゃんじゃない!」
新田「あの・・それは仕事のことでして・・」
美保「あ~ もう、これだからこじらせ男子は! いいからやるの! 分かった?」
新田「はぁ・・」
新田、気乗りしない様子でお茶を口にする。
美保「で? まこっちゃん。昼間反応してた『体』の方は? 大丈夫? 私、指導しようか?」
新田、口に含んだお茶を吹き出す。
新田「そそそ、それ、セクハラですから!」

〇マンション・501号室・リビング(夜)
ソファに水琴、一果、双葉が座っている。
水琴「何言ってるの? 一果ちゃん! 付き合ったらまずはカ・ラ・ダ。体の相性確かめなきゃでしょ」
一果「え? そ、そ、そういうものですか?」
水琴「当たり前! いい? 恥ずかしがる必要ないの。人間の本能でしょ? 食欲。睡眠欲。性欲。みんな持ってるわけだから。どれだけ一緒にいてストレスがないか確かめるために付き合うのよ」
一果「べ、勉強になります」
水琴「一果ちゃんの場合、食欲の方の相性は大丈夫そうでしょ? シン、一果ちゃんの作ったご飯食べてくれているわけだし。これから一緒にご飯食べに行ったりして『おいしい』って思うものと『これは・・?』って思うもの知ってけばいいし、もしそれが違っても許容範囲内かどうか、っていうのを確かめればいいわ」
一果「許容範囲ですか・・?」
水琴「例えば、シンがゲテモノ好きだとするじゃない? 目の前でタランチュラとか食べられたら一果ちゃんはどう? 『無理!』って思う人と『私は食べたくないけど、おいしそうに食べてるんだったらいっか』って思う人といるでしょ?」
一果「ちょっと表現が独特ですけど・・まあ確かに」
水琴「あとは食べ方ね。『もうこの人の食べ方見たくない』って思う人とずっと一緒にはいられないでしょ?」
一果「水琴さんて・・意外と冷静に人のこと見てるんですね」
水琴「普通よ、普通。あ、そうそう、体の相性の方だけど・・」
X X X
水琴、裸にナイトローブを羽織って現れる。
ナイトローブはシルク。黒をベースに美しい桜がプリントされている。
水琴、ソファに立ち、一果と双葉の前でナイトローブの前を広げる。
一果と双葉、照れながらも真剣に水琴のデリケートゾーンを見ている。
水琴「今はハート形にしてるんだけどね、そのうち細くしてって、最後はツルツルにする予定なの」
一果「あの、痛くないんですか?」
水琴「ううん。全然。あ~痛みゼロではないけど、我慢できるくらいかな?」
一果「すご~い・・」
水琴「ここ以外はもう全身脱毛済みよ。触って触って」
水琴、腕を出す。
一果と双葉、おそるおそる触る。
一果「ホントだ、ツルツルです・・」
水琴「体の相性確かめる前の身だしなみよ。いたしてる最中に余計なこと考えたくないじゃない?」
一果「べ、勉強になります・・」
ドアが開く音がする。
鮎沢「ただいま〜 うわ、何?」
水琴、ナイトローブの前を留める。
水琴「あ~シン! おかえり。一果ちゃんと付き合うことになったんだってね。おめでとう~ 二人に伝授しようと思って。私の秘儀を」
鮎沢「なん・・水琴、お前の感覚は普通と違うんだからな。一果と双葉ちゃんを巻き込むなよ」
水琴「え~ 何それ。ひどい。私も『普通の』女の子だし」
鮎沢「どこがだよ。メンズ? ボーイズ? そっちの世界絶対巻き込むんじゃないぞ」
水琴「分かってるわよ。そのくらい私だってわきまえてるから。じゃ、女子会の続きはうるさいお兄さんがいない2人の部屋でやろっか・・」
一果「あ・・水琴さん、ちょっと私たちには刺激強すぎなので今日はこの辺で」
水琴「そう? じゃ、また遊ぼうね」
水琴、一果と双葉に手を振る。

〇同・502号室・リビング(夜)
一果と双葉、無言でソファに座る。
一果「すごかったね・・」
双葉、大きく頷く。

〇映画館・カップルシート(日替わり)
一果と鮎沢、手をつないで座っている。
ホットドッグとドリンクが置かれている。
一果、手をつないだまま食べようとするが、服の上にこぼす。
鮎沢、それを見て笑い、一果とつないだ手を離して食べ始める。
室内が暗くなり、映画が始まる。
X X X
一果と鮎沢、再び手をつないでいる。
隣のカップルシートでは、男女が激しいキスをしている。
一果、その様子を驚いた顔で見ている。
一果、鮎沢に知らせようとつないだ手を動かすが、鮎沢、寝ている。
一果「・・」

〇道(夕方)
一果と鮎沢、手をつないで歩いている。
鮎沢「ごめんて」
一果「あんなに爆睡しなくても」
鮎沢「だって、全然動きなかったじゃん。音楽もセリフもなくてさ。寝るなっつう方が無理じゃん」
一果「まあ確かにそうだけど」
一果M「ていうか私も寝ちゃってたんだけどさ・・」
X X X
(フラッシュ)
映画館。明るくなり人が歩く気配や音で起きる一果。
隣の鮎沢を見ると寝ている。
X X X
一果「それでも、映画サイトでは高評価だったんだよ。見ないともったいないじゃん」
鮎沢「そう? 俺らの性格とか好みとか知らない奴に『オススメ』とか言われてもな~」
一果、不機嫌な顔をしている。
鮎沢「あ、ごめん。せっかく調べてくれたのに。ホントごめん。ま、見ないとそんなの分かんないよな」
一果「・・」
鮎沢「怒るなよ。一果、一果様、一果ちゃん? 飯行こうぜ!」
一果「・・」
鮎沢「ほら、調べてくれたんだろ? 美味しいイタリアンだっけ?」
一果「うん」
鮎沢「お~良かった。返事してくれた。このままずっと無視されてたらどうしようかと思ったわ~ 行こうぜ。腹減った」
一果、つないでいる手を前後に振り、歩き始める。

〇レストラン・前(夕方)
一果と鮎沢、立ちつくしている。
貼り紙『店主都合により臨時休業 大変申し訳ありません』
一果「うそ・・ごめん」
鮎沢「なんで一果が謝るんだよ。ほら、店主だってこうして謝ってるだろ。しょうがねえじゃん」
一果「どうしよ」
鮎沢「大丈夫。適当に探そうぜ」
一果「あ・・じゃあ、アプリで・・」
鮎沢「ダメ。また評価とかで探すんだろ?」
一果「だって美味しいもの食べたいじゃん」
鮎沢「大丈夫だって。日本でマズイ飯探す方が大変だから」

〇駅前・商店街(夕方)
飲食店が並んでいる。
一果と鮎沢、手をつないで歩いている。
1組の男女、中華料理店から出てくる。
幸せそうな笑顔。
鮎沢「ここでいい?」
一果「あ・・うん」

〇中華料理店・店内(夕方)
鮎沢と一果、入ってくる。
店員「いらっしゃいませ~」
X X X
店員、水を置く。
鮎沢「こんにちは」
店員「いらっしゃいませ。お決まりになりましたら――」
鮎沢「俺たち、初めてなんですけど、おススメはありますか?」
店員、笑顔になる。
店員「あんかけチャーハンがおススメです」
鮎沢「ありがとうございます。じゃあ決まったら――」
一果「じゃあ、私、あんかけチャーハン」
鮎沢「じゃあ、あんかけチャーハン2つで」
店員「あんかけチャーハン2つ! ありがとうございます!」

〇道(夜)
一果と鮎沢、手をつないで歩いている。
一果「おいしかったね~ 評価見たら、4.5もあった!」
鮎沢「そっか。良かったよ。一果が喜んでくれて」
一果「なんで美味しいお店って分かったの?」
鮎沢「店から出てきた人が満足そうだったから? マズイ飯食べた後、あの顔にはならないかな~と思って」
一果「へ~ すごいね。そんなの見てたんだ」
鮎沢「普通だよ。ミノルの弁当屋も、常連さんがいた。朝、唐揚げ弁当が一番高く積まれてたのに、夜は品切れになることが多かった。だから気になって朝のうちに買って食べてみたんだ。そしたらドはまり」
二人、笑う。
鮎沢「そういえばさ、一果って中学の時料理人になるとか言ってなかった?」

〇回想・キャンプ場・炊事場(6年前)
一果を含むジャージ姿の生徒数人、野菜を切っている。
一果(14)「ちょっと小林、それ、もうちょっと小さく切れない? その半分くらい。火が通らないからさ」
小林と呼ばれた生徒、頷いて人参を半分に切り始める。
一果「あ、愛花ちゃん、そのお肉は広げておいてくれる? 室温に戻さないで火を通すと固くなっちゃうから」
愛花と呼ばれた生徒、頷いて肉をバットに広げ始める。
鮎沢「相原、なんかすげーな。料理人みたい」
一果「そう? 料理人なれるかな? いつかお店出したいんだよね~ 自分のレストラン。そしたらみんな、食べに来て~」

〇道(夜)
一果と鮎沢、手をつないで歩いている。
一果「あ~、うん。でも、まあ、夢は夢。現実は厳しいかな~って」
鮎沢「そうか? 俺、お前ならなれると思ったけど」
一果「あ、でも今は料理人じゃないけど食品関係の仕事してるし、私は満足してるよ」
鮎沢「そっか。一応聞くけど、双葉ちゃんのことは――」
一果「やめて! 双葉のことは関係ないから」
鮎沢「・・」
一果「あ・・そうだ、今度はさ、水族館とか行かない?」

〇マンション・502号室・前(夜)
鮎沢と一果、立ち止まる。
鮎沢「今日はありがとな。楽しかった」
一果「うん。ありがとう」
鮎沢「じゃ」
一果「あ、うん・・」
一果M「え? これで、終わり? 『ウチ来る?』とか『一果の部屋見せて』とかないの?」
鮎沢、自分の部屋に向かい歩いていき、鍵を開けているが、一果の様子に気付く。
鮎沢「ん? どうした? 鍵なくしたとか?」
一果「ううん。何でもない。大丈夫」
鮎沢「そっか。じゃ、またな」
一果、鮎沢が部屋に入っていく様子を見つめ、ため息をつく。

〇同・501号室・リビング(夜)
双葉、ジグソーパズルをしている。
鮎沢、入ってくるが、双葉はパズルに集中して気が付いていない。
鮎沢、ソファに座り双葉の姿を見つめている。
鵜月原、自分の部屋から出てくるが、双葉を見つめている鮎沢を見つめる。
鵜月原、鮎沢の視線を遮るようにして双葉のところへ歩いていく。
鵜月原「双葉ちゃん、もう遅いからそろそろ今日は終わりにしようか?」
双葉、慌てて時計を探し、時間を見て驚く。
双葉、鵜月原を見つめて微笑み、鮎沢の視線に気づく。
鵜月原、双葉の視線を追い、鮎沢を見る。
鵜月原「あ、シン。帰ってたんだ? どうだった? 一果ちゃんとのデートは」
鮎沢、気まずそうに立ち上がる。
鮎沢「あ~うん。まあ、楽しかったよ」
鵜月原「そっか、良かった」
鮎沢「あ、ごめんね。双葉ちゃん。集中してたから声かけなかった。一果、もう家にいるからさ」
双葉、笑顔で頷き、鮎沢に手を振る。
双葉と鵜月原、出て行く。

〇食品工場・食堂
一果と双葉、美保と真理子、昼食を食べている。
美保「で? どうだった? 初めての2人きりデートは」
一果「あ~ なんか・・なんていうか、どうなんでしょう? 映画は大人のラブロマンス過ぎて二人で爆睡しちゃったし、その後のレストランは臨時休業してるし。なんかことごとく失敗でした」
真理子「そっか~、じゃあ、食べずに帰ったの?」
一果「いえ。彼が偶然見つけたお店であんかけチャーハン食べました! あ~、美味しかったな~」
真理子「すごいじゃない! そういうのもデートの醍醐味よね~ ハプニングの時こそ、相手が分かるのよ」
一果「そういうものですか?」
真理子「そうよ! そういう時、一果ちゃんを責めたりするような人はやめた方がいいわ。でも唐揚げ君はさりげなく一果ちゃんをフォローしたわけでしょ? いい子じゃない」
一果「そうですか? 普通だと思いますけど」
美保「いや、そういう時に嫌な態度取る奴は意外といるのよ。普段はいい人そうな顔してるのに、『なんで調べてないんだ?』とか『こういう映画はさ~最初のデートに選ばないでしょ』とか、嫌味言うのよ。まあその時点で終了だけどね」
真理子「ね~」
美保と真理子、顔を見合わせて笑う。

〇マンション・501号室・リビング(夜)
一果、双葉、鵜月原、鮎沢、水琴、足立の6人でツイスターをやっている。
鵜月原と鮎沢が親。
無理な注文をして笑っている。
一果「水琴さん、顔ちっちゃいのに手足長!」
水琴「そう? 両親のおかげね」
足立「すみません。もう限界です。足、つりました」
みんなで崩れる。
X X X
全員、ソファに座っている。
双葉、足立の足をマッサージしている。
足立「もう大丈夫です。双葉さん、ありがとうございました。マッサージできるなんてすごいですね」
一果「そう! 双葉は昔ネイリスト目指してたときにそういうのも勉強してたの! ・・あ、ごめん」
一果、申し訳なさそうな顔で双葉を見る。
双葉、首を横に振り、笑顔を見せる。
一果「あ、そういえば水琴さんは? 何のお仕事してるんですか?」
水琴「私? ジュエリーデザイナー。そうそう、これも私がデザインしたの」
水琴、自分のアクセサリーを見せる。
一果「え~すごい! キレイ! 少しだけ和のテイスト入ってるんですね」
水琴「昔からこういうの、好きなの。全部和風って感じじゃなくて、どこか和の雰囲気を感じるもの。でもなかなか売ってないのよね~ だから自分で作ろうって思って。身に付けるものって自分の気持ちが上がるかどうかで選びたいから。いつもいい気分でいたいの。凌のためにも」
水琴、隣に座っている鵜月原を見つめ、キスをする。
一果と双葉、目を丸くして水琴と鵜月原を見つめ、二人で手を握り合っている。
鵜月原「飲み物持ってくる」
鵜月原、立ち上がりキッチンの方へ行く。
水琴「あ、そうだ! 一果ちゃんと双葉ちゃんにも今度私のデザインしたアクセサリー、プレゼントさせて!」
一果「え? いいんですか?」
一果と双葉、顔を見合わせて喜ぶ。
水琴「もちろん!」
鵜月原「コーヒー淹れてるけど、みんなも何か飲む?」
一果と双葉、顔を見合わせる。
双葉、首を横に振る。
一果「あ~私たちは・・大丈夫です。そろそろ帰ろうかな?」
足立「あ、僕ももう帰ります」
X X X
一果と双葉と足立、立ち上がり帰ろうとしている。
鮎沢「あ、一果ちょっとだけいい?」
一果「あ・・うん・・」
一果、顔が赤い。
一果「双葉、先に帰ってて。ミノル君、またね」
双葉と足立、出て行く。

〇同・同・鮎沢の部屋(夜)
鮎沢と一果、入ってくる。
鮎沢「こないだはありがとう。あ、座るとこないや。ベッドでいい?」
一果「あ、うん」
一果、照れながらベッドに座る。
鮎沢は椅子に座る。
一果「え? そっち?」
鮎沢「ん?」
一果M「てっきりカラダの相性確認するのかと・・恥ず!」
一果「あ、なんでもない。こないだって、あの失敗デート? なんか色々ごめんね。段取り悪くて」
鮎沢「失敗? 全然失敗じゃないし。俺は楽しかった。次は水族館だっけ? 行こうぜ」
一果「あ、うん。あ・・で?」
鮎沢「あのさ、俺、双葉ちゃんのお父さんと会ってみたいんだけど」
一果「え? どういうこと?」
鮎沢「俺、やっぱりあれからずっと気になってて。一果、この前の中華料理屋でずっと厨房見てた。本当は料理人の夢、諦めてないんだろうなって思ってさ」
一果「厨房見てたのは・・趣味みたいなもんだから。それにそのことと双葉のお父さんと関係ある?」
鮎沢「双葉ちゃんが話さなくなったのは、おじさんが原因なんだろ? だったらその原因のおじさんと話して解決すれば、また双葉ちゃん話すようになるかもしんないじゃん。二人が仲いいのは分かるけど、そろそろ一果も双葉ちゃんの保護者みたいな役やめて、自分のやりたいことやった方がいいと思う」
一果「・・なんでそういうこと言うの? 双葉は関係ないって言ったじゃん。保護者って言うけど、双葉はお母さん亡くした時すっごい傷ついたんだよ。ようやくここまで立ち直った。ちゃんと仕事して、頑張って生きてる。これ以上双葉に『頑張れ』なんて言えない。ひどいよ。鮎沢がそんな冷たい奴だと思わなかった。私は双葉が自分で話したいって思うようになるまで、傍にいてあげたい」
鮎沢「じゃあさ、それっていつ? 明日? 明後日?」
一果「そんなのわかんないよ」
鮎沢「双葉ちゃんはさ、話せるんだろ? 一果がそうやって守ろうとすることが、双葉ちゃんのやりたいことも奪っているとしたら?」
一果「何それ、ひどい。鮎沢は今までの私たちのこと、何も知らないじゃん。なんで彼氏っていうだけで、いきなりそこまで言われないといけないの? 付き合うってさ。もっと色々デートしたり、旅行したりして楽しむことなんじゃないの? 私たちのことには口出さないで」
鮎沢「・・ごめん。でも俺は、今の問題が片付かない以上、正直目の前のことを楽しめない」
一果「問題? 双葉が話せないことは問題なの? 双葉は双葉のやり方で、ちゃんとコミュニケーション取れてる。社会とつながってる」
鮎沢「違う。問題は、双葉ちゃんじゃなくて一果だよ」
一果「私が? 双葉がじゃなくて?」
鮎沢「一果だよ。双葉ちゃんには自分がいないとダメって勝手に決めつけてる。自分の夢を諦めた代償を双葉ちゃんで埋めてる。本当は話さない双葉ちゃんに安心してる」
一果、立ち上がり、
一果「そんなことない」
鮎沢「じゃあ、双葉ちゃんのお父さんに会って、その時のこととか聞いても平気だろ? 双葉ちゃんが話すようになって、会社のみんなや、俺たちと直接話すようになっても平気ってことだろ?」
一果「もちろん! 双葉が話すようになったら私も嬉しいし? 全然平気」
鮎沢「じゃあ、決まり。一果、段取り頼める? よろしく」
一果「分かった。日にち決まったら連絡する」
一果、怒りながら出て行く。

〇同・502号室・一果の部屋(夜)
一果、ベッドに寝転んでいる。
一果M「あ~なんであんなこと言っちゃったんだろう・・ 双葉に言った方がいいかな? いやいや、絶対無理でしょ。とりあえず、おじさんに電話してみるか」
一果、起き上がり『洋食石川』に電話している。

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