【鬼頭心理研究所】5話2024年01月05日 08:00

〇鬼頭心理研究所・受付(朝)
蝶子とさゆり、座っている。
繍が入ってくる。
繍「おはよう」
蝶子・さゆり「おはようございます」
繍「俺、今日からしばらく午後、綺華の病院通うから」
蝶子「承知いたしました」
繍、カウンセリングルームに向かう途中で立ち止まり、前を向いたまま話す。
繍「あ、それから俺、綺華と付き合うことになったから」
蝶子「承知いたしました」
さゆり、驚き顔を上げるが、唇を噛み、うつむく。
繍は振り返らず、カウンセリングルームに入っていく。
ドアが閉まる。

〇タイトル

〇回想・セントラル工機・外観(1年2か月前)
オフィスビル
「セントラル工機」の看板がかかっている。
T「1年2か月前」

〇回想・セントラル工機・オフィス(1年2か月前)
さゆり(24)、パソコンで作業している。
営業社員の庄司淳史(しょうじあつし・28)が入ってくる。
庄司「ただいま戻りました~ ってあれ? さゆりちゃん一人?」
さゆり「はい、みなさん今外回り中で・・」
庄司、さゆりの席まで歩いて来る。
さゆりに顔を近づけ、パソコン画面を覗き込む。
庄司「仕事もう慣れた? 何か困ってることない?」
庄司、さゆりの肩を触る。
さゆり、庄司の手から離れようと肩をずらすが、庄司は構わず触り、肩をもみ始める。
さゆり「あ、はい、みなさん親切なので、助かってます」
さゆりの笑顔が引きつっている。
庄司「さゆりちゃんすごい肩凝ってる。俺、マッサージ超得意。美容院のなんかより全然気持ちいいでしょ」
庄司、さゆりの肩をもみ続ける。
さゆり、意を決して庄司の手を取る。
さゆり「あの・・庄司さん、すみません。こんなことされると仕事に集中できないので・・」
庄司、耳元でさゆりにささやく。
庄司「それって感じてきちゃってるってこと? さゆりちゃん、エロいね」
さゆり、驚いた顔で庄司の顔を見つめる。
庄司、さゆりの様子を見て笑う。
庄司「冗談、冗談。さゆりちゃん本気にしちゃってかわいい~」

〇回想・同・外(1年2か月前・夕方)
さゆり、会社から出てくる。
庄司、さゆりの後ろから追いかけてくる。
庄司「さゆりちゃん? 今帰り?」
さゆり「あ、庄司さん・・ はい、帰るとこです」
庄司「お、偶然。俺もこっちだから、途中まで一緒に帰ろうよ」
庄司、さゆりの肩に手を置く。
さゆり「・・」
さゆりのスマホに着信。
さゆり「あ、電話! 庄司さんすみません。また・・」
さゆり、スマホを持って道路脇に行き、庄司に謝るようにお辞儀をする。
庄司、しばらく見ているが、諦めて立ち去る。
派遣会社の営業・葉山(45)の声「あ、もしもし鬼龍さん、葉山です。1か月経ちましたが状況いかがですか? 続けられそうでしょうか?」
さゆり「葉山さん、実はちょっと相談したいことが・・」

〇回想・喫茶店・店内(1年2か月前・夕方)
葉山とさゆり、テーブル席に座っている。
店員、コーヒーを運んでくる。
葉山、店員がいなくなるのを待つ。
葉山「・・セクハラ・・ですか」
さゆり「悪い人ではないんですが、私が1人の時に、その・・肩を触ってきた-り、耳元で囁いたりするんです」
葉山「分かりました。僕から会社に伝えます」
さゆり「あの・・でもこのことで仕事切られてしまったら、と思うと・・」
葉山「大丈夫です。会社側が対応するのは今は当たり前のことですから。よく話してくれました」
さゆり、安心したように微笑み、コーヒーを口にする。

〇回想・セントラル工機・外観(1年2か月前・日替わり)

〇映像・セントラル工機・オフィス(1年2か月前)
監視カメラ映像。
さゆり、パソコンで作業をしている。
庄司、近づいてきてさゆりの肩を触る。
さゆり、体を動かし避けようとしているが、庄司は肩をもみ始める。
映像が止まる。

〇回想・同・会議室(1年2か月前)
総務課長と営業課長、一緒にカメラ映像を見ている。
総務課長「アウトですね、これ」
営業課長が舌打ちをする。
営業課長「あいつ・・庄司・・何やってくれてんだ」

◯回想・同・会議室(1年2か月前・日替わり)
庄司と営業課長、向かい合って座っている。
机の上には懲戒処分通知。
出勤停止3日と記載されている。
庄司「は? それ、さゆりちゃんが言ってるんですか? 俺、処分なんて納得できないですから」
営業課長「お前それ。ちゃん付けで呼ぶのもダメだから」
庄司「なんすか、それ。あの子大人しそうだから、少しでも早く会社に馴染んでもらおうと思って、こっちは親切で声かけてるんすよ。肩揉んであげた時だって、全然嫌がってなかったし。むしろ喜んでましたよ。俺、肩揉むの得意なんで!」
営業課長「まあ、お前の気持ちは分かるよ。でもほら、今は色々とうるさいだろ。触るのはまずいだろ。それに派遣の子は一応外部の人間だし、な。会社としても何かやらないとまずいんだよ。な、3日間休むだけだし。このことでお前の昇進には響かないようにするからさ」
庄司「分かりました。俺、見せしめってことですね。もうあの子には話しかけないんで安心してください!」
庄司、怒りながら出て行く。
営業課長、やれやれといった様子で庄司を見送る。

〇回想・同・オフィス(1年2か月前・日替わり)
さゆり、パソコンに向かって作業をしている。
同じ部屋には女性社員がもう一人。
庄司、外回りから帰ってくるが、さゆりのところには来ない。

〇回想・同・会議室(1年1か月前・日替わり)
総務課長と葉山、向かい合って座っている。
総務課長「葉山さん、先日のハラスメントの件、大変申し訳ありませんでした。弊社としても該当の社員に対して処分を行いましたので、この件はこれでご納得いただきたいのですが・・」
葉山「早々に対応いただき、本当にありがとうございました。それで、電話でお話があった派遣終了の件ですが・・」
総務課長「はい、鬼龍さんには来ていただいたばかりで大変心苦しいのですが、弊社としても今回の件を機に派遣の女性を1人で事務所に残すのはどうかと見直しをすることになり、社内で人員を調整することにいたしました。そのため、営業課としては人員が足りている、という状態になりましたので・・申し訳ありません」

〇回想・同・外(1年1か月前)
さゆり、会社から出てくる。
葉山から着信。
さゆり、電話に出る。
葉山の声「葉山です。どうですか? セクハラの件、あれからよくなりました?」
さゆり「はい、葉山さんのおかげですっかり大丈夫になりました。本当にありがとうございました」
葉山の声「それは良かったです。ただ・・実は鬼龍さんに残念なお話がありまして・・」

〇回想・同・オフィス(1年前)
さゆり、みんなの前で立って挨拶している。
さゆり「短い間ですが、大変お世話になりました。ありがとうございました」

〇回想・同・女子トイレ(1年前)
女子社員・神田(24)と安川(29)が鏡の前で立って歯磨きをしている。
神田「聞きました? 庄司さんですって」
安川「え? 何?」
神田「派遣の子にセクハラして出勤停止になった人ですよ」
安川「あ~ 懲戒辞令出てたね、そういえば」
神田「そうなんです。庄司さん、前に急に休んだことあったんですよ。変だなぁって思ってて。営業の田中さんに聞いたらこっそり教えてくれました。内緒ですよ!」

〇同・オフィス
神田、席で弁当を食べながらスマホを操作している。
LINEの画面。
さゆりの引っ越しの時の写真数枚を送信している。
神田のメッセージ「この人覚えてます?」
安川のメッセージ「誰?」
神田のメッセージ「鬼龍さんです。庄司さんのセクハラ相手ですよ~」
安川、ナイスのスタンプを押す。

〇同・女子トイレ
小佐田桃(29)と安川、トイレで化粧を直している。
安川「あ、そういえば、庄司のセクハラの子、神田が見かけたらしいよ。見る? それがさ、すごいイケメンと一緒なの。相変わらず男の引き寄せ力すごいよね。笑っちゃった」
安川、小佐田にスマホの写真を見せる。
さゆりと誉、繍が並んで写っている。
小佐田の顔色が変わる。
小佐田「・・ねえ、これどこ?」

〇鬼頭心理研究所・外(夕方)
さゆり、『本日は終了しました』の札をかけている。
小佐田「あの・・すみません」
さゆり「はい? あ、すみません。ご相談ですか? 今日はもう終了で・・」
小佐田「鬼龍さんですよね?」

〇同・カウンセリングルーム(夕方)
さゆりと小佐田、ソファに向かい合って座っている。
さゆり「あの、私に相談というのは?」
小佐田「私、セントラル工機で働いてます小佐田といいます。鬼龍さんて前に派遣で働いていましたよね?」
さゆり「あ・・セントラル工機・・はい」

〇回想・セントラル工機・オフィス(1年2か月前)
庄司、さゆりの席まで歩いて来てさゆりのパソコン画面を覗き込む。
庄司「仕事もう慣れた? 何か困ってることない?」
庄司、さゆりの肩を触る。
さゆり、庄司の手から離れようと肩をずらすが、庄司は構わず触る。
さゆり「あ、はい、みなさん親切なので、助かってます」
さゆりの笑顔が引きつっている。
庄司「あれ? さゆりちゃん肩凝ってるよ? 僕、マッサージ超得意なんだけど」
庄司、さゆりの肩をもみ始める。
さゆり、意を決して庄司の手を取る。
さゆり「庄司さん、すみません。こんなことされると仕事に集中できないので・・」
庄司、耳元でさゆりにささやく。
庄司「それって感じてきちゃってるってこと? さゆりちゃん、エロいね」
さゆり、驚いた顔で庄司の顔を見つめる。
庄司、さゆりの様子を見て笑う。
庄司「冗談、冗談。さゆりちゃん本気にしちゃってかわいい~」

〇鬼頭心理研究所・カウンセリングルーム
小佐田「鬼龍さん?」
さゆり「あ、はい。すみません」
小佐田「それで、みんなで庄司さんを懲らしめようって話になったんです。鬼龍さんへのセクハラの後、出勤停止になったのに、全然懲りてなくて」
さゆり「え? なんでセクハラのことを?」
小佐田「・・ごめんなさい。あくまでも噂だったんです。鬼龍さんが辞められた後、すぐに懲戒辞令が定例会議で共有されて・・あれって、個人名は出ないけど、派遣社員の女性が被害に遭った、っていう事実と処分内容公表されますよね。庄司さん、あの頃急にお休みされてたんで・・」
さゆり「・・」
小佐田「すみません。もしかして違いました?」
さゆり「・・」
小佐田「もし違っていたらすみません。でももし被害に遭われているようなら、私たちと一緒に戦いませんか?」
さゆり「・・あ・・でも、もう私は辞めた人なので・・庄司さんも覚えてないと思いますし」
小佐田「そんなことあるはずないじゃないですか! むしろ鬼龍さんが来てくれたら、彼もあの処分のこと思い出しますし」
さゆりが唇を噛む。
小佐田「結局、会社って女性目線じゃないんです。セクハラで訴えても、知らないおじさんたちにいやらしい目で見られながら、何されたか話さなきゃいけないんです。もうそれがセクハラじゃん、て感じ。秘密厳守って言いながら、同じ会社だし、絶対ばれますよね。だからみんな言えないんです・・」
小佐田が泣き出す。
さゆり「あの・・私は何をすれば?」
小佐田「ありがとうございます! 私たち、定期的に集まって作戦会議しているんですけど、鬼龍さん、来れる日ありますか? 平日の午後ならいつでも。鬼龍さんが来てくれるなら、合わせます!」
X X X
(フラッシュ)
繍「来週水曜の午後、綺華の退院付き添ってくるわ。お前、休んでもいいぞ」
X X X
さゆり「来週水曜の午後なら・・」
小佐田「じゃ、決まりですね! 私からみんなに連絡しておきます」

◯さゆりの部屋・寝室(夜)
さゆり、ベッドに横になっている。
さゆりM「セクハラか・・もう忘れたかったけど・・私と同じ目に遭ってる人、いるのかな・・」
さゆり、唇を噛み、腕を目元に当てる。

〇回想・居酒屋・店内(1年3か月前・夜)
さゆりの歓迎会。
営業課の社員数名とさゆりが笑顔で飲食している。
庄司、さゆりの横で話しかけたり、ビールを渡したりしている。
さゆり、笑顔で応えている。

〇回想・公園・ベンチ(1年3か月前・夜)
さゆり、ベンチに横になっている。
さゆり「すみません、庄司さん。私、ちょっと休めば大丈夫なんで」
庄司「ううん。飲ませすぎちゃったの俺だから。こんなになると思わなくてごめん。服、ちょっと開けるね」
庄司、さゆりの服のボタンを開けている。
さゆり「庄司さん、ちょっと、やめてください」
さゆり、庄司の手を止めようとしているが、逆に庄司に手を掴まれる。
庄司「大丈夫だから」
庄司、さゆりの服の中に手を入れ、下着のホックを外す。
庄司「よいしょっと。ほら、これも外した方が楽でしょ? もっと楽になるようマッサージしてあげるよ」
庄司がさゆりの体を触っている。

〇さゆりの部屋・寝室(夜)
さゆりM「怖かった・・被害者って何人いるんだろ。庄司さん、悪い人ではないんだけど、きっとセクハラの自覚、ないんだろうな・・みんな私と違って同じ会社の正社員だし、言いづらいのかも・・」

〇小佐田のマンション・外観
T「水曜日・午後」

〇同・玄関ドア前~リビング手前
さゆり、深呼吸して、インターホンを押す。
小佐田の声「今行きます」
小佐田、ドアを開ける。
小佐田「どうぞ」
さゆり、小佐田の後について歩いていく。
さゆり「他の被害者の方は後から?」
小佐田はそれには答えず、リビングのドアを開ける。
小佐田「どうぞ」
さゆりが入っていくと、後ろでドアが閉まる。
奥から黒い目出し帽をかぶった男が4人、ニヤニヤしながら出てくる。
さゆり「ちょっと待って、どういうことですか?」
さゆりが振り返ると、小佐田が笑いながらさゆりにスタンガンを当てる。
倒れるさゆりを目出し帽の男たちが支える。

〇同・寝室
さゆりに猿ぐつわがされている。
目だし帽4人がそれぞれさゆりの手足を縛っている。
目出し帽A(16)「さゆりちゃんだっけ? すごい趣味!」
目出し帽B(18)「聞いたよ。犯されたい願望あるんだって?」
さゆり、必死に首を横に振り、否定している。
小佐田「ね? 変わった趣味でしょ? 私も相談されたときびっくりしたんだけど・・」
小佐田、笑いながらさゆりを見下ろす。
小佐田「さゆりにはいつもお世話になってるからね。サプラーイズ!」
小佐田、両手を高く上げる。
小佐田、スマホのカメラを構える。
小佐田「嫌がる振りも含めて趣味だから。さ、みんな手を抜かないで、本気でいじめてさゆりを喜ばせてあげて~」
目だし帽C(22)、カメラに向かってポーズする。
目だし帽C「じゃあ、俺からいっちゃいまーす」
さゆりのワンピースを力いっぱい左右に引っ張る。ボタンが飛ぶ。
さゆりの下着が露になる。
盛り上がる5人。
目だし帽C「すげー、初めてやったわ。超楽しい~」
目だし帽D(18)「俺にもやらせてください!」
目だし帽D、カメラに向かってサムアップした後、さゆりのストッキングを引きちぎる。
再び盛り上がる5人。
さゆり、目をつぶる。
さゆりМ「先生、助けて!」
ドアが開いて、男が入ってくる・
さゆりМ「先生?」
さゆり、目を見開く。庄司である。
さゆりМ「庄司さん? なんで? どういうこと? 小佐田さんとグルだったってこと? ・・そっか・・私、庄司さんに恨まれてたんだ・・」
庄司「あれ? 何してんの?」
小佐田、慌ててスマホを置いて、庄司を寝室から連れ出す。
小佐田「え? なんで?」
庄司「え? だってお前から連絡来たじゃん。具合悪いから今すぐ来てって」
小佐田「・・そんなのしてないよ」
庄司「は? っていうか、なんで俺らの寝室に他人入れてるわけ?」
庄司、小佐田が止めるのも聞かず、寝室に無理矢理入っていく。
小佐田「ま、待って!」
庄司「なんだ? お前ら? 帰れ!」
目だし帽4人、状況を察して出ていく。
庄司、ベッドに縛られた女性に気づき、紐をほどこうとする。
小佐田「ちょっと、なんでそんな女助けるの?」
庄司「え?」
小佐田「鬼龍さゆりって、庄司をはめた女でしょ?」
庄司「え? さゆりちゃんなの?」
慌てて顔の猿ぐつわを外す庄司。
さゆりがゲホゲホと咳き込む。
小佐田「こういう腹黒い女は! このくらいされて当然なの! だってこの女のせいで庄司の人生めちゃめちゃじゃん!」
庄司「・・ないわ」
小佐田「え?」
庄司「ごめん、確かに俺愚痴ったかも。でも、こんなことしてくれって頼んだ覚えないし」
小佐田「はあ? こっちはあんたのためにやったんですけど! 感謝してもらいたいわ~」
扉がノックされる。
繍が立っている。
繍「お取込み中すみません。彼女、返してもらいにきました」
唖然とする庄司と小佐田。
繍「ほら、いくぞ」
繍、さゆりにコートをかぶせた後、持ってきたハサミで紐を切り、抱えて連れていく。
繍「あなたたちの一連の行動、全て記録させていただきました。今後こいつに手を出すようなことがあった場合は、もう容赦しませんので・・」
繍が控えめな口調ながらかなり怒っているのが、伝わる。
繍が立ち止まる。
繍「あなたが撮影していたスマホの動画も、削除させていただきました」
小佐田、慌ててスマホを操作する。
小佐田「え? なんで?・・確かに録画してたのに!」
庄司と小佐田、出ていく繍とさゆりを呆然と見送る。

〇車・内
繍、運転している。
さゆり、泣いている。
さゆり「なんで来たの?」
繍「なんでって・・蝶子から連絡が来た」

〇回想・車・内(1時間前)
T「1時間前」
繍、運転しているが、蝶子から着信。
車内スピーカーで電話に出る繍。
繍「どうした?」
蝶子「申し訳ありません。さゆりさんのことで気になることがありまして・・」
X X X
繍、パソコンの画面を見ている。
小佐田と庄司の情報が表示されている。
蝶子の声「さゆりさん、先日この小佐田さんという方からセクハラ被害の相談を受けてました。セクハラの加害者は庄司さんということなんですが、このお二人、現在恋愛関係にあるようで同棲されているようです」
繍「は?」
蝶子の声「さゆりさん、今小佐田さんのご自宅に向かわれているようなんですが、その・・小佐田さんの情報を調べていたところ、闇バイトで男性を募集されていました。募集が開始されたのが、ちょうど小佐田さんが相談に来られた日、バイトの日時は今日の午後です」
繍「バイトの・・内容は?」
蝶子の声「SM動画撮影です」
繍「・・庄司さんも関係しているのか?」
蝶子の声「わかりません。ただ、今日は通常通り勤務されているようです」
繍「わかった。じゃあまずは庄司さんを自宅に向かわせろ。理由は何でもいい」

〇回想・道(30分前)
庄司、歩いている。
スマホに着信。
庄司、スマホを見る。
小佐田のメッセージ「具合悪くて死にそう。今すぐ帰ってきて」
庄司、スマホをしまい、慌ててタクシーを呼ぶ。

〇回想・車・内(5分前)
繍、ナビを見ながら運転している。
蝶子の声「庄司さん、あと5分ほどで着くはずです」
繍「よくやった。俺ももう少しで着く」
蝶子の声「そのようですね。あ、先生」
繍「なんだ?」
蝶子の声「すみません、心配していたことが起きてしまいました。小佐田さんが・・撮影を・・」
小佐田の声「嫌がる振りも含めて趣味だから。さ、みんな手を抜かないで、本気でいじめてさゆりを喜ばせてあげて~」
繍、悔しそうにハンドルを叩く。
繍「蝶子、その動画は削除しておけ」
蝶子「承知いたしました」

〇鬼頭心理研究所・受付
蝶子がPCを操作している。
画面には「削除完了」の文字が出ている。

〇車・内
繍、運転している。
さゆり、泣いている。
さゆり「蝶子さんが・・でも先生、綺華さんの退院は?」
繍「だからそっちは最悪一人でもできるだろ。お前こそなんで相談しなかった?」
さゆり「だって・・知られたくなかった」
繍「あのなぁ、こっちはお前の過去くらい、知ってんだよ。一緒に仕事してきたんだから、俺が調べてることくらい想像できるだろ」
さゆり「何それ、ひどい! 私だって隠したいことだってあるのに。知られたくないことだってあるのに。仕事だからって何でもしていいわけじゃない!」
車が停まる。
さゆり「え?」
さゆりの顔が青ざめる。

〇公園・駐車場
人気のない駐車場の端。
繍が車から降り、後部席のスライドドアを開ける。
助手席のドアを開ける。
さゆりが目をつぶる。
繍「足、出せ」
さゆり、恐る恐る目を開ける。
さゆり「え?」
繍「いいから」
繍がさゆりのシートベルトを外し、体を横に向かせる。
さゆりの足に残っている紐を外す。
後部座席の救急箱から消毒液を取り出し、
繍「ちょっと我慢しろ」
さゆりの足の傷に消毒液をかける。
救急箱から傷パッドを出し、さゆりの足に貼り、その上から包帯を巻く。
手の傷も同じように手当する。
繍「・・悪かったよ。確かにお前の言う通り、知られたくないこともあるよな。そういう感覚、すっかり麻痺してたかも。ごめん。今日も、もっと俺が早く気付くべきだった。怖い思いさせて悪かった・・」
さゆりが首を横に振る。
繍「・・帰ったらもう1回ちゃんと見てやるからな」
繍、後部座席からサンダルを取り出し、座席の足元に置く。
繍「靴、回収するの忘れてた。履けよ。でかいけど。裸足よりはいいだろ、な」
繍、笑いかける。
繍、後部座席からブランケットを取り出し、さゆりにかける。
繍「寒くないか?」
さゆり「う、うん」
繍、助手席と後部座席のドアを閉め、自販機に行き、ホットレモンとコーヒーを買って戻ってくる。
運転席に乗り、ホットレモンをさゆりに渡す。
繍「好きだろ、これ」
さゆりが泣きながら笑って頷く。
繍が車を動かす。

〇鬼頭心理研究所・入口前(夜)
タクシーが停まっている。
繍の車が停まる。
繍「ん? タクシー?」
綺華が降りてくる。
さゆり「綺華さん? なんで?」
タクシー運転手が、トランクからスーツケースを取り出し、入口前に置く。
綺華と運転手が親しげに手を振り、タクシーが去る。
繍、駐車場に車を入れる。

〇同・前~中(夜)
綺華、立って手を振っている。
綺華「こんばんは。さゆりちゃんも、この前はありがとう」
さゆりはコートの前をぎゅっと握り、会釈をする。
繍「どうした?」
綺華「どうしたって? ひどい。だって繍、いきなり来れなくなったなんて言うんだもん。寂しくなっちゃって」
繍「悪い、悪い。ちょっと急ぎの用事ができて」
綺華、さゆりを見る。
さゆり、目を伏せる。
綺華「ねえ、急ぎの用事って何?」
繍「だから仕事だよ。相談者が急に暴れたの」
綺華「ふうん・・」
綺華、再びさゆりを見る。
繍「もういいだろ、荷物貸せ」
繍、綺華の荷物を持つ。
繍「それより綺華。足大丈夫なのか?」
綺華「ううん。まだ痛くて」
足を引きずりながら歩く綺華。
繍が支える。
綺華「ありがと」
繍と綺華、エレベーターに乗り込む。
繍が「開」ボタンを押してさゆりを待つが、さゆりは電話がかかってきたふりをして、エレベーターには乗らない。
エレベーターの扉が閉まる。
ガラスに映った自分を見つめるさゆり。
綺華と比べてしまい、みじめな気持ちになり、ため息をつく。
エレベーターが3階まで上がったのを確かめ、ゆっくり昇ボタンを押す。

〇同・さゆりの部屋(夜)
さゆり、コートを脱ぎ、部屋着に着替える。
破れた服を見てため息をつき、ごみ箱に入れる。
コートを見つめる。
X X X
(フラッシュ)
繍「ほら、いくぞ」
繍、さゆりにコートをかぶせた後、持ってきたハサミで紐を切り、抱えて連れていく。
X X X
さゆり、コートをしばらく抱きしめ、匂いを嗅ぐ。
手首の包帯を見つめる。
X X X
(フラッシュ)
繍、さゆりの手首に包帯を巻く。
X X X
さゆり、手首の包帯を触る。
X X X
(フラッシュ)
エレベーターに乗った繍と綺華の姿。
綺華の冷たい目線。
X X X
さゆり、包帯と傷パッドを全て外してゴミ箱に入れ、傷が目立つところに絆創膏を貼る。
傷の部分が見えないように、袖と裾の長い服に着替え、鏡で確認した後、荷物をまとめ、出ていく。
たたまれたコートの上にメモ。
『先生、助けに来てくれてありがとう。さっきはごめんなさい。しばらくホテルに泊まることにします』

〇同・繍の部屋・リビング(夜)
繍、救急箱を持っている。
綺華、後ろから繍に抱きつく。
綺華「会いたかった」
繍「俺も。ごめんな。今日急に予定変わっちゃって」
綺華「ううん・・あの子のとこ、行くつもり?」
繍「ああ、ちょっとケガさせちゃって」
綺華「大人でしょ。自分でできるから大丈夫よ」
繍「ん・・でもやっぱ様子見てくるわ」
綺華「・・行ったら別れる」
繍「え?」
綺華「・・私かわいそう。付き合い始めたばかりなのに、退院の付き添いもドタキャンされて、ここに来たらあなたのコートを着たあの子がいた。私って何?」
繍「・・悪い、けど、今日は色々あってあいつはまだ一人にさせられない」
綺華、ため息をつく。
綺華「・・別れるなんて嘘よ。行って」
綺華、離れる。
繍「ごめん、すぐ戻る」

〇同・さゆりの部屋・ドア前~部屋
繍、さゆりの部屋をノックする。
手には救急箱を抱えている。
繍「さゆり、いる? 救急箱、持ってきた」
返事がない。
鍵が開いている。
繍「開けるぞ」
誰もいない。
コートとその上に置かれたメモに気づく。
繍、スマホを取り出しさゆりに電話をするが、応答がない。
舌打ちをして、家を出る。

〇誉の車・内(夜)
誉、仕事のメールをしている。
ふと顔を上げたとき、大きなカバンを持って一人で歩くさゆりを見かける。
さゆりがファーストフード店に入っていく。
繍「屋代さん、停めてもらえる?」
屋代「わかりました」
車が路肩に停まる。

〇ファーストフード店・店内(夜)
さゆり、通りに面した窓際に座り、スマホでホテルを調べながらバーガーを食べている。
誉、店内でさゆりを探し、見つけて声をかける。
誉「さゆりちゃん? どうしたの?」
さゆり「え? 誉さん? 誉さんこそどうして?」
誉「たまたまさっき見かけちゃって。気づいたらここに来てた」
誉が笑い、隣に座る。
さゆり「今帰りなんですね。お疲れ様です。あ、私はたまにこういうの無性に食べたくなっちゃって」
さゆりが持っていたバーガーを上げて見せる。
誉「あ~わかる。なんだろね、そういう瞬間僕もたまにあるよ。なんか入ってるよね。癖になるやつ」
誉がさゆりに笑いかける。
さゆりの顔も緩む。
さゆり「誉さんの顔見てたらなんか元気出て来ました」
誉「そう、ならよかった」
誉、さゆりの顔をじっと見る。
誉「・・何かあった? よければ聞くよ」
さゆり「あ~・・ごめんなさい。今ちょっとそういうの禁止で・・」
さゆり、誉から顔を背ける。
誉、スマホを操作している。
誉「さゆりちゃん、見て」
誉、さゆりの肩を抱き、スマホの画面を見せる。
繍へのメッセージ「さゆりちゃん、今日うちに泊まるから」
さゆり、スマホの画面を見た後、驚いた顔で誉を見つめる。

〇街頭~ファーストフード店前(夜)
繍、さゆりを探している。
ファーストフード店の前を横切るとき、偶然さゆりと誉の姿を見かける。
繍「あれ? さゆりと・・誉?」
誉、さゆりの肩を抱いてキスをしているように見える。
立ち止まってしばらく見つめる。
スマホに着信。
誉からのメッセージ「さゆりちゃん、今日うちに泊まるから」
繍「なんだよ、アイツ。ホテルに泊まるとか言って誉と一緒かよ」
怒りながら帰る繍。

〇ファーストフード店・店内(夜)
さゆり、驚いた顔で誉を見つめている。
誉「不思議だよね。驚くと涙止まるでしょ。じゃ、行くよ」
さゆり「あ、まだ途中・・」
誉「じゃあ、さゆりちゃんはこれ持って。さ、急ぐよ」
誉、さゆりにバーガーとドリンクを持たせ、さゆりの鞄を持って走りながら店を出ていく。

〇誉のマンション・外観(夜)
高級マンション。

〇同・警備員室(夜)
警備員(30)「お疲れ様です」
誉「今日、この子泊まるので。妹です」
警備員「あれ? 鬼頭さん、妹さんいましたっけ?」
誉、意味ありげな笑顔。
警備員、わかりました、というように胸元でサムアップし笑顔で見送る。

〇同・エレベーター内(夜)
誉、さゆりのカバンを持っている。
さゆり、思いつめた顔をしている。
誉「妹は不服?」
さゆり「え?」
誉「なんか不満そうな顔してる。恋人って言っとけばよかったかな~」
さゆり、笑う。
さゆり「違うんです。ここまで来といてあれなんですけど、誉さんに彼女とかいたら誤解されちゃうよな~とか、あ~なんですぐ私って流されちゃうんだろうな~とか、色々考えちゃって・・」
誉「・・彼女はいないよ。いてもここには連れてこない」
誉、さゆりを見つめる。
誉「あのぐらいしないと、さゆりちゃんうちに来ないでしょ。さゆりちゃんが普通じゃない状態だってことは、僕にもすぐに分かった。こんな状態のさゆりちゃんを外に出すなんて、アイツどうかしてる」
さゆり「あ、あ、違うんです。先生は悪くなくって。私が勝手に居づらくなっちゃっただけで・・」
さゆりの目に涙が溢れる。
顔を隠すようにうつむく。
エレベーターが到着する。

〇同・リビング(夜)
広いリビングにソファが置かれている。
無駄のない、シンプルな部屋。
部屋からは夜景が見える。
さゆり、感激して立ち止まる。
さゆり「え? 何これ? すごい! 誉さんて、お金持ちだったんですね!」
誉「あ、いや、これは会社の持ち物なんだ。仕事上、色々セキュリティ条件とかが厳しくって」
さゆり「だとしてもすごいです!」
見慣れない家具、家電、調度品に興奮するさゆり。
さゆりを横目で見ながら微笑み、てきぱきとさゆりが泊まる準備を進めていく誉。
誉「さゆりちゃん、とりあえずお風呂、入んなよ。タオルと寝巻はそこに置いといたから」
いつの間にかテーブルの上にお泊り道具一式が置かれている。
さゆり「誉さんて魔法使いみたい! すごい! ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて、お風呂お借りします」

〇同・浴室(夜)
さゆり、浴槽に浸かっている。
X X X
(フラッシュ)
エレベーターに乗った繍と綺華の姿。
繍の照れたような笑顔。
X X X
さゆりの目に涙。
さゆり「あ~だめだめ、もう泣かないの」
自分の顔を浴槽の中にいれる。

〇同・誉の寝室(夜)
誉、繍に電話をかけている。
誉「あ~繍? ごめん、さっきは突然。さゆりちゃんの様子が変なんだけどさ、何があった?」

〇同・リビング(夜)
小さな音量でクラシックが流れている。
誉「はい」
パジャマ姿の誉、ソファに座ったさゆりの前にカップを置き、隣に座る。
誉「カモミールティー。苦手じゃなければ。落ち着くよ」
さゆり「ありがとうございます。いただきます」
さゆりがカップに口をつける。
パジャマの袖がめくれ、アザが見える。
誉「痛そう」
さゆり「?」
誉「そのアザ。さっき繍に聞いたよ。大変だったんだって? 心配してたよ。あれでも」
さゆり「・・」
誉「・・詳しいことは話せないけど、傍にいてやって、って言われた」
さゆり「先生が、そんなことを・・」
さゆり、笑う。
さゆり「先生らしい」
誉「?」
さゆり「私が出てきたの、そのことが原因じゃないです」
誉「どういうこと?」
さゆり「先生、前に話した元カノって人とまた付き合うことにしたみたいで・・今日その彼女、来たんです。大きな荷物持って・・先生と一緒に住むみたいです」
誉「え? 繍が? 同棲ってこと?」
さゆり、頷く。
さゆり「本当は今日退院手続きして一緒に帰ってくるつもりだったと思うんですけど、先生、予定を変更して私を助けに来てくれて。バカですよね、私。先生が本当は私のこと、好きだからなんじゃないかってどっかで浮かれてて。純粋に、嬉しかったんです。あんな目に遭ったのに、先生が助けに来てくれたことで、なんかいい記憶に変わっちゃって」
誉「・・」
さゆり「毎日先生が綺華さんのお見舞いに行ってたことも、綺華さんと付き合うようになったってことも、全部知ってたはずなのに、どっかで信じてない私がいたんです。だって綺華さん、旦那さんとはまだ離婚成立してないし、それ以前に先生、蕁麻疹出ちゃうから触れないじゃん、とか、先生のこと、どっかで可哀そうって思ってたのかも。最低ですよね」
誉「・・(首を横に振る)」
さゆり「でも、綺華さんが実際に来て、先生の嬉しそうな顔とか、見てたら、あ~私ってなんてバカだったんだろうって思っちゃって。先生に巻いてもらった包帯とか、特別に感じていたことが、全部、特別じゃなくなって。多分先生は相手が誰でも同じことするんだろうな、って思って。みじめで、恥ずかしくて、で、逃げて来ちゃったんです。私、本当に自分が嫌になりました」
さゆり、声を震わせ、うつ向く。
誉、さゆりを抱き寄せ、背中をさする。
誉「さゆりちゃんが来てくれて、繍は変わったと思う。前よりよく笑うようになったし、雰囲気が柔らかくなった。さゆりちゃんのおかげだよ」
さゆり、首を横に振る。
誉「繍は僕の従弟だけど、兄弟みたいに一緒に育った。繍のお母さん、いなくなっちゃってね。繍のお父さんも警察官だから家を空けることが多くて、週に1回くらいかな? それくらいしか会えなかった。でも、僕らには強がって弱音らしい弱音はいたことないんだ。子供の頃も年中長袖と手袋してて、でも俺はこの格好が好きだ、とか強がってさ」
さゆり「・・私にもⅤ系メイクは俺の恵まれたビジュアルを隠すためとかなんとか・・」
誉「・・繍らしいよね。でも、こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、さゆりちゃんの、その、ご両親のこともあるから、繍がさゆりちゃんに対して特別な思いを持っていることは確かだと思うよ。そういうの、やっぱりどれだけ寄り添う気持ちがあっても、分かり合えない部分ってあると思うんだ。少なくとも繍は、さゆりちゃんに心を許してるし、信頼もしてると思う。繍の言動は、さゆりちゃんが望む形じゃなかったのかもしれないけど、少なくとも僕は、さゆりちゃんが来てくれて感謝してる」
さゆり、誉によりかかっていつの間にか寝ている。
誉、ほほ笑む。

〇さゆりの夢の中(夜)
金色の龍がさゆりの方を向いて漂っている。
少し経つと方向を変え、天へ昇っていく。

〇誉のマンション・ゲストルーム(翌朝)
さゆりが目を覚ます。
さゆり「・・龍?」

〇同・リビング(朝)
さゆりが着替えて、支度を済ませて座っている。
目がまだ腫れている。
誉、入ってくる。
誉「あれ、さゆりちゃん? 早いね」
さゆり、立ち上がって深々とお辞儀をする。
さゆり「誉様、昨日は大変ご無礼をいたしました」
誉「なになに、さゆりちゃん、なんかあったっけ?」
誉が笑いかける。
何もなかったことにしようとしていることに気づき、涙が出そうになるさゆり。
さゆり「はい、誉様の優しさに甘え、失態を・・」

〇回想・同・リビング(夜)
さゆり、泣き疲れてそのまま誉に抱きついたまま寝ている。
誉、そのまま動けずにいるが、あまりの辛さに体の位置を変えようとする。
さゆり、起きる。
さゆりが体を離したところ、鼻水がびよーんと伸びる。
誉「・・」
さゆり「・・」
誉、吹き出し、笑いが止まらなくなる。
恥ずかしがるさゆり。

〇同・リビング(朝)
思い出し笑いをする誉。
誉「あ、ごめんね、さゆりちゃん。ここ一笑った」
さゆり、顔を赤くし恥ずかしがるが、笑っている誉を見て、自分も笑う。
さゆり「誉さんがそんなに笑ってくれるなら、ま、良かったかな」
X X X
執事型ロボットの和泉(いずみ・35)が入ってくる。
和泉「おはようございます、誉様。本日の朝食はいかがいたしましょうか?」
誉「ああ、和泉。おはよう。今日は洋食にするよ」
和泉「かしこまりました。お客様はいかがでしょうか?」
さゆり「あ、はい。私も同じで」
和泉「かしこまりました」
さゆりが誉に「すごい! この人もロボット?」と喜んでいる顔を見せる。

〇誉の車・内(朝)
誉、思い出し笑いをする。
屋代「社長、今日は随分と楽しそうですね」
誉「ああ、昨日ちょっとね。予想外のことが起きて」
屋代「社長が特定の方にご興味を持たれるのは珍しいですね」
誉「ああ、いや、どうなんだろう。従弟と一緒に働いてる子だからかな。つい構いたくなっちゃうんだよね」

〇鬼頭心理研究所・受付~待合室(朝)
さゆり「おはようございます」
蝶子「おはようございます。今日はさゆりさんにお客様がお見えです」
さゆり「え?」
さゆりが待合室を覗く。
さゆりの祖母・鬼龍かよ(70)が背筋を伸ばし座っている。
さゆり「おばあちゃん! いきなりどうしたの?」
かよ「それを言うのは私の方だよ!」

〇同・さゆりの部屋(朝)
かよ、さゆりのベッドの上に座っている。
テーブルにはお茶。
かよ「さゆりに手紙を書いたらね、宛先不明で戻ってきたんだ」
さゆり「あ・・」
かよ「鬼頭のじいさんに話したら、あんたが繍と一緒に住んでるっていうじゃないか!」
さゆり「一緒に住んでるっていうのはちょっと違うような・・」
かよ「言い訳はいい。前のアパートはもう取り壊してないんだって? なんで私に相談してくれんかった? そんなに頼りないか?」
さゆり「・・ごめんなさい。でもおばあちゃんに迷惑かけたくなくて」
かよ、さゆりの手を取り、アザをなでる。
かよ「こんなアザまで作って・・」
さゆりが手を引っ込める。
さゆり「あ、これは私のせいで・・」
かよ、さゆりを抱きしめる。
かよ「一緒に来なさい。しずかに遠慮してさゆりを引き取らなかったおばあちゃんが悪かった」
かよ、さゆりの鞄に気が付く。
かよ「なんだ、もう出る準備しとったんじゃないか。やっぱりしずかの子だね。先見の目を持ってる」
さゆり「あ・・それはちが――」
かよ、さゆりを強引に連れ出す。

〇鬼頭心理研究所・カウンセリングルーム
繍が座っている。
かよ、机をはさんだ向かい側に立っている。
さゆり、かよの後ろにうつ向いたまま立っている。
かよ「繍ちゃん、あんたいい加減になさい。さゆりを危ない目に遭わせて。あんたのじいさんには、さゆりを危険な目に遭わせたら許さんと釘を刺しといたはずじゃ。それなのに、次の助手候補も断って・・」
さゆり、顔を上げて驚いた顔をする。
繍が気まずそうな顔をする。
かよ「・・挙句の果てにさゆりをここに住まわせて。いいかい、さゆりは私が連れて帰るからね」
かよ、さゆりの手を取り部屋から出ていく。
繍が立ち上がる。
繍「あ、かよさん、待ってよ!」
ドアが閉まる。
繍、力なく椅子に座る。
X X X
ドアをノックする音がする。
繍、立ち上がる。
繍「なんだよ、やっぱり戻ってきたか・・あ、」
綺華が入ってくる。
綺華「あの子、出ていったんだ?」
繍「ああ、俺が危ない目に遭わせたから・・」
綺華「ちょうどよかったんじゃない? 女の子にあんな仕事は無理よ」

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